旧車に手厚い欧州メーカーと厳しい日本! 欧州がパーツを廃番にしない理由は「オーナーに優しいから」ではなかった (2/2ページ)

旧車へのサービスをブランディングとして利用する欧州メーカー

 それゆえ、復刻パーツの裏側にはクルマ好きでなくとも胸アツなストーリーが詰まっているのです。例をあげたらきりがないのですが、いまでも人気の初代ロードスターでは当時の純正タイヤの復刻(!)が行われています。とはいえ、ご多分に漏れず当時の金型やデータはほとんどなく、新車当時のタイヤを採寸、計測しつつ、最新のコンパウンド、レシピでもって「再現」にこぎつけています。それでも、幸いなことに当時のエンジニアらが結束し、乗り心地やドライブフィールまで再現できたというストーリー、オーナーでなくとも胸打たれるのではないでしょうか。

 一方、日産では金型を使うことなくボディパネルの少量生産に特化した技術を実現しています。R32型GT-Rのリヤパネルでデモ動画がありますが、この「対向式ダイレス成型」技術は金型への投資よりはるかに低コスト、環境負荷の低減といったメリットも兼ね備えており、将来ますますの応用が期待されています。

 もちろん、こうした復元パーツは国内メーカーだけでなく、海外のメーカーもやってるところはやっているのです。フェラーリやランボルギーニがレストア部門を設けてからずいぶん経ちますが、重要部品はもちろん、バッヂやレンズといったコスメティックパーツにいたるまでリプロダクション、再生産が行われていることはあまり知られていません。

 また、ポルシェやメルセデス・ベンツは、パーツを廃番にするケースが比較的少ないかと。仮に欠品していたとしても「オーダーの数がまとまれば再生産」とアナウンスされており、無下に死刑宣告はされない模様。もっとも、両社ともに古くなると「クラシック認定」とかなんとか設定されて、部品の価格がいきなり値上げされたりしていますけどね(笑)。

 彼らにとって、自社のクルマが古くなっても元気に路上を走っているというのは重要なブランディングにほかなりません。高性能、高品質というだけでなく、メーカーの手厚いサービスや、真摯な姿勢を示すのに旧車は絶好のモデルというわけです。むろん、こうした考え方は海外メーカーだけでなく、国内でも浸透し始めていることはたしかでしょう。

 これまではオーナーズクラブに入って、少ない情報から「どうにかこうにか」手に入れていたパーツが、公式サイトにカタログ化されていたり、リクエストコーナーが設けられるなど、旧車の部品環境はわずかながらも進歩を遂げているのです。

 やっぱり古いクルマが元気よく、そしてオーナーが颯爽と走っているのを目にするのはクルマ好きとしてはじつに喜ばしいこと。メーカーのブランディングに加担するわけではありませんが、復刻パーツの効果は絶大! 実施していないメーカーは、うかうかしてチャンスを逃すことのないよう、一刻も早く「復刻パーツ窓口」を設けることを切に願うものです。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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三菱パジェロミニ/ビューエルXB12R/KTM 690SMC
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