特等席でレースを感じられるハードなお仕事
また、ポジションやタイムを競うレース競技では、「計時オフィシャル」も欠かせないセクションだ。「エントラントの走行結果を集計して、それを発行することが主な役割ですが、タイムの計測以外にも役割があります。パドック委員が計測したピットでのスピード違反、走路以外の走行やイエローフラッグ中の追い越しなどの違反に対して、ペナルティを発表することも計時の担当で、審査委員会が最終的に判断した裁定をリザルトに反映して発表しています。あとはFIA-F4では赤旗で予選が中断されるケースも多いですが、予選の時間の管理も計時の仕事です」と計時の役割について説明してくれたのが、副計時委員長の伊藤拓央さん。
まさに計時オフィシャルの仕事も多岐に渡るが、カテゴリーごとの違いはないようで、伊藤さんによれば「F1も鈴鹿クラブマンも仕事の内容は同じです。予選通過の基準タイムも各カテゴリーの規則書に合わせて計算しています。今回のスーパーGTは14名のオフィシャルで計時をしていますが、F1はFIAが計測をしていますので、少ない人数で対応しています」とのことである。
そのほか、「パドック・オフィシャル」もレース競技では重要なセクションとなっており、その役割についてパドック・オフィシャルの寺田清隆さんは「スタート進行中の安全管理にスタートの審判。あとはスーパーGTではピット上でタイヤ交換や給油などの作業がありますので、ピットレーン上でのメカニックたちの安全管理、ピットレーンでの速度計測、チームへの通達などが主な業務になります。担当エリアとしてはピットレーンとレース進行中はグリッド、あとレース中はストレート上に落下物がないか、破損している車両がないかをチェックしています」と説明する。
ちなみに、スーパーGTの第5戦では33名のオフィシャルがパドックを担当。寺田さんによれば、「給油のあるカテゴリーではガソリン漏れが起こる可能性があるので、消火器を身近に置いたりと火災に対する対応を意識しています」とのことだ。
さらに、「レスキューオフィシャル」もレースでは欠かせない存在で、鈴鹿サーキットではF1からカートレースまでジャパン・レスキュー・クラブがその役目を担当している。同クラブの監事である大江伸幸さんによれば、「クラッシュなどの事故があった際に選手の救助を行うほか、状況によっては車両の撤去や回収も行なっています。コースの各箇所で対応しているレスキューと、1周目はFROという救急車両が最後尾から追従していますので、ドクターと協力しながらドライバーを救出。スーパーGTではGセンサーが装着されていて、強い衝撃を受けるとGセンサーが反応するので、Gセンサーが作動している場合はドクターの指示に合わせてドライバーを救出しています。基本的にクラッシュしたドライバーを救急車に乗せてメディカルセンターへ搬送するまでがレスキューの仕事です」とのことで、まさに事故現場とドクターへの間を繋ぐ役割となっている。
レスキュー担当者にとってもっとも必要なことが、ケガに対する知識で「今大会では約40名のレスキューがコースに分散していますが、すべての箇所にドクターがいるわけではないので、ケガを見極めるために知識やスキルが必要になってきます」と大江さん。そのために、同クラブでは看護師が在籍するほか、レースウィークにはドライバー救出の訓練が行われているようで、大江さんによれば「F1の場合はFIAからの指導があります。木曜日からコースに入って、FIAの役員の立ち合いのもと実際のF1マシンを使って訓練を実施。その後もレース期間中は絶えず反復練習をしています」とのことだ。
実際、スーパーGT第5戦の決勝日には、ピットウォーク時にデモンストレーションを兼ねてレスキューのトレーニングを実施。大江さんによれば「体力も使いますが、緊張を強いられながら待機して、何かあったら迅速に対応しなければならないですからね。メンタル的な疲労のほうが強いかもしれません」とのことである。
そして、レース競技を支えるオフィシャルについて語るときに、最大の裏方としてクローズアップされるのが「事務局」にほかならない。「事務局はほかのセクションと違って木曜日から動いています。走行が始まる前に選手受付を行うほか、ドライバーズブリーフィングなどの資料作りも事務局の仕事です。走行が始まってからも、いろんな書類が発行されるので管理や配布、告知などをエントラントや内部に向けて行っています。レース終了後はトロフィーの授与なども行なっています」とその役割を説明してくれたのは藤森勝朗さん。まさに事務局はレース運営の窓口であり、運営者とエントラント、そして各セクションを繋ぐ重要な業務だ。
事務局の仕事場はコントロールタワー内にあるオフィスであることから、コースオフィシャルやパドックオフィシャルと違って気温や天候に悩まされることはないが、拘束時間が長く、「朝は早いですし、夜も遅いですからね。他のセクションのオフィシャルは走行終了後に帰っていきますが、我々は夜遅くまで書類を作っています」と藤森さん。ちなみに気になるF1については、「F1は事務局を含めてパッケージで日本に来ていますからね。F1のドライバーに書類の検査もしないので、サポート的な役目を行なっています」とのことである。
このように、スーパーGTではレースを運営するために数多くのオフィシャルが参加しており、鈴鹿ラウンドには総勢290名のスタッフが参加していた。しかも、オフィシャルはさまざまなセクションに分かれており、スペシャリストたちが担当業務をこなしているからこそ、スムースなレース運営を実現。
いずれもハードな業務だが、コースオフィシャルを担当する前述の沖山さんによれば、「やっぱりレースが好きじゃないとやれないですね。お客さんとしてレースを観戦することも楽しいですけど、オフィシャルは特等席でレースを感じられます」とのことで、オフィシャルたちのレースに対する情熱と愛情が国内最大級のレースが支えられている。