馬鹿デカイ車体にハイパワーモーターに巨大バッテリーってホントにエコ!? それでもアメリカではEVピックアップが急速拡大中だった (2/2ページ)

老舗メーカーは往年のファンも納得のスペックで電動化

 ピックアップ市場におけるベストセラー、F-150を擁するフォードは、「F-150ライトニング」をラインアップ。こちらは2022年にリリースされ、今年で2年目を迎える。ボディ形状はフォードが「スーパークルー」と呼ぶ4ドアのキャビンにショートタイプの荷台を組み合わせたタイプ。ボディサイズは全長5910×全幅2032×全高(アンテナ含む)1988mmで、ホイールベースは3696mmと堂々たる体躯を誇る。

フォードF-150 ライトニングのフロントスタイリング

 パワートレインおよび駆動方式は、車体の前後にひとつずつ計ふたつのモーターを搭載するAWDで、最高出力は標準モデルで466馬力、上位モデルでは580馬力を発揮。最大トルクはどちらも107.2kg-mで、上位モデルは0~60マイル(約96km/h)加速で4秒台中盤を記録する。最大積載能力は標準モデルで約900kg、牽引能力は上位モデルで4.5トン以上となっており、従来のF-150オーナーにも十分満足できる性能を達成している。グレードは商用ユースを念頭に置いたPRO、一般向けのXLT、LARIAT、そして最上位グレードであるPlatinumの4モデル。車両価格は4万9995〜9万1995ドルとなる。

フォードF-150 ライトニングのサイドスタイリング

 そしてGMCからは、2024年モデルとして「シエラEVデナリ」が登場する。GMCとはゼネラルモータース内のピックアップ&SUV専門ブランドで、シボレーに対して上級に位置づけられる。シボレーのピックアップ「シルバラード」の兄弟車がGMC「シエラ」で、デナリとは最上位グレードを意味するもの。まずはトップモデルであるデナリを発表し、2024〜2025年にかけて「AT4」「ELEVATION(エレベーション)」といったモデルが追加されるようだ。そしてシエラEVデナリの初期モデルには、導入を記念して「EDITION 1」のサブネームが与えられる。

GMCシエラ EVデナリ エディション1のフロントスタイリング

 シエラEVデナリも、フォードF-150ライトニングと同様に4ドアのキャビンにショートタイプの荷台(ベッド)を組み合わせる。車体とベッド部分に境界線のないモノボディで、伝統的なピックアップに対して乗用車的なフォルムであることが特徴といえる。ゼネラルモータースが開発した次世代グローバルEVプラットフォームに、自社開発の新型バッテリー「Ultium(アルティウム)」を組み合わせ、車体の前後にふたつのモーターを搭載するAWD。

 まるで「」(かぎかっこ)のような形状のLEDヘッドライトを採用したフロントマスクは、どこか冷淡でクールな印象を感じさせるが、その運動性能は熱量たっぷりのもの。最高出力は754馬力で、最大トルクは785lb-ft(108.53kg-m)、0-60マイル加速は4.5秒を誇る。そして注目はピックアップならではの指標である最大牽引能力で、なんと4309kg。つまり、自車を約2台、引っ張ることができるのだ。そして一充電での最大航続距離は640km。ちなみに車両価格も迫力満点で、10万7000ドルからという強気の設定だ。

GMCシエラ EVデナリ エディション1のフロント

 かつてのアメリカ車といえば、大柄なボディに大排気量のV8エンジンを搭載するモデルほど高級とされた。それは大排気量V8が生み出す低中回転域での圧倒的なトルクが、高級車にふさわしいパワーデリバリーや加速を提供してくれたからだ。ましてピックアップは、大きな荷物を荷台に載せて広大な土地を走りまわるという、どこか西部開拓時代を連想させるカテゴリーでもあり、エコとは対極に位置する存在というイメージが広まっていた。

フォードF-150 ラプターRの走行写真

 そんなピックアップカテゴリーに押し寄せたEVのトレンドだが、さっそく大出力モーター&大容量バッテリーが各モデルのウリとなっている点は非常にアメリカらしい。これまで内燃機関の世界で各メーカーが繰り広げてきたパワーウォーズが、はやくもEVピックアップの世界で勃発している。

 どれだけ大きなモーターやバッテリーを搭載するかが商品力となるようでは、「はたしてこれはエコなのだろうか?」と言いたくなるが、EVピックアップのトレンドは、今後もますます加速していきそうだ。それは北米市場における消費者にとって、環境問題に敏感であるというスタンスを周囲にアピールすることは、自身のステータスや意識の高さを示す最高の機会だからだ。そして、EVピックアップならではの大きな車体は、生命力や経済力の象徴でもある。

GMCシエラ EVデナリ エディション1の充電中の写真

 各メーカーのEVピックアップがアピールする、重量級の車体を恐ろしい速さで加速させる圧倒的な動力性能も、車両の前後に備わる大容量のラゲッジスペースも、オーナーが実際に使用することはほとんどないだろう。それより重要なのは、都市部で乗るには静かだし、排気音や排気ガスの臭いが気になることはないし、オイル交換などメンテナンスも抑えられるし、自宅や会社に充電設備があれば面倒な給油作業からも解放されるという事実と、先進性や革新性というEVの持つイメージだ。

シボレー・シルバラードEVの充電中の写真

 もちろんユーザーの生活環境によっては、まだまだEVなんて現実的じゃないというケースは多いはず。そのために、各メーカーとも従来の内燃機関を搭載した車種もしっかりとラインアップに残している。環境問題が世界的に叫ばれ、もはやEVこそが唯一の最適解といわんばかりの論調のなか、多くの選択肢が残されていることが、自動車大国アメリカたる所以かもしれない。


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