もう燃費だけを追い求める時代は終わった
さてこのほか、ここ5年ほどで一気にモデル数が増えてきたのが、プラグインハイブリッドカー(PHV/PHEV)。エンジンとモーターを使い分けて適切に走行するのはシリーズ・パラレル方式と同じですが、外部からバッテリーに充電することができ、EV走行の距離が長いことと、繰り返し充電すればモーターのみで走行が可能というところが違いとなっています。
世界で初めて市販されたPHVは、トヨタのコースターハイブリッドEV。2012年にプリウスPHV、三菱アウトランダーPHEVが登場しますが、当時はEV走行距離がプリウスPHVは26.4km、アウトランダーPHEVは60.2km。これはJC08モードでの数値なので、実際にはもっと短い走行距離となっていました。しかしいま、3代目となって名前も変わったプリウスPHEVは、EV走行距離が87km。2代目となったアウトランダーPHEVも同じく87kmまでのびています。どちらも、より実走行に近い条件でテストされるWLTCモードでの数値なので、モーターだけでずいぶんと長い距離を走ることができるようになったといえます。
さらに、初代プリウスのころから飛躍的に進化したのが燃費です。従来の日本独自の測定方法だった「10・15モード」や「JC08モード」から、2018年10月以降は国際基準でもある「WLTCモード」に変更されたため、単純に数値での比較が難しいところもありますが、初代プリウスは10・15モード燃費で28.0km/L。これは当時の同クラスガソリン車の2倍以上となる、脅威的な低燃費性能でした。そこから2代目プリウスは10・15モード燃費で35.5km/L、3代目プリウスは10・15モード燃費で38.0km/L、4代目プリウスはJC08モード燃費でついに40.8km/Lと、夢の大台を突破。測定基準が厳しくなっているにもかかわらず、この燃費を実現したのはすごいことですね。
そして現在、5代目となったプリウスはWLTCモード燃費で、1.8リッターモデルが最高32.6km/L。2リッターモデルは最高で28.6km/L。「あれ?ちょっと燃費が悪くなってる?」と思うかもしれません。でもこれは決して、技術が退化したわけでも性能を妥協したわけでもなく、あえて、このように作っているというところが、この26年でハイブリッドカーがどのように変化したのかを象徴していると考えます。
というのは、この5代目プリウスを開発するにあたり、すでに初代プリウスを作った目的である「ハイブリッドカーを世の中に普及させる」という目的は十分に果たされたので、豊田社長からは「もうプリウスはタクシー専用車にしてもいいのでは?」という提案さえ出ていたそうです。
燃費をさらに良くするために突き詰めると、どうしてもファン・トゥ・ドライブの部分や快適性、乗り心地といったユーザーのためのベネフィットがスポイルされがち。「こんなにハイブリッドカーが溢れる世の中になったいま、そこまでして燃費だけのためにプリウスを作り続ける意味があるのか?」という問いかけでもあり、開発チームは何度も議論を繰り返したといいます。
そして出た答えが、燃費の良さだけでなく、「見て乗って虜にさせるような魅力的なハイブリッドカーにする」ということ。これまでなら、燃費のために犠牲にしたり削ったりしていたところを、5代目プリウスでは走りや快適性、デザインを優先して、ユーザーに間違いなく「愛車」だと認めてもらえることを目指したのだそう。
まわりを見ても、そういった「燃費より満足度」を重視したハイブリッドカーが増えています。プリウス誕生から四半世紀を超えて、燃費がいいのは当たり前、それよりも走る楽しさや快適性、惚れ込むようなデザインを手にすることができるハイブリッドカーが、いまの主流になっています。