目に見えないだけに理解が難しい! クルマの走りを大きく左右する「空力」を歴史とともに解説!! (2/2ページ)

車体下部に負圧を生じさせるウイングカーの登場

 この空気の流れを使って車体を抑え付けるという発想から、空気流による圧力差を利用して車体を路面に「吸い付ける」(ベンチュリー効果、グランドエフェクト)方式が考え出されることになる。先鞭を切ったのはロータスで、1977年にウイングカー構造のロータス78をデビューさせ、この考え方を発展させたロータス79(1978年)がその空力効果にものをいわせて猛威を振るうことになる。

 このウイングカー構造はまたたく間にレーシングカー作りの基本となるが、空気流が逆になった場合(車両の向きが前後逆、たとえばスピン状態など)、今度は車体を舞い上がらせる方向で空気の流れが作用することになり、重大なアクシデントに結びつくことから禁止となったホディ構造である(F1では2022年から復活している)。

 フラットボトム形状は、車体床面の形状を変化させることでベンチュリー効果を得ていたウイングカー構造を禁止するためにとられた措置で、ホイールベース間の床面を真っ平ら(フラット)にすることを義務付けた規則である。このため、車体を強制的に吸い付けるベンチュリー効果は使えなくなったが、床面の凹凸をなくすことで空気の流れをスムースにする効果をもたらしていた。

 このフラットボトム形状は、レーシングカーの世界で生まれた考え方だったが、量産車の領域でも空気抵抗を減少する効果がある方式として、現在では積極的に活用される方向にある。

 また、フラットボトム規定と並行して、規定の盲点を突く手段として、車体後部床面の形状をディフューザー化する考えがうまれた。リヤアクスルから後ろの床面形状はフラット化する規定から外れていたため、この領域の形状に工夫を加えることで、部分的なベンチュリー効果、部分的なウイングカー構造とする発想である。この手法は、あっという間にレーシングカー作りの常識として広まっていた。

 さらに、これは量産車の領域でも使われる手法だが、ボルテックスジェネレーターやパネル表面を平滑化せず意図的に凹凸のある模様を設ける手法は、空気流を意図的に乱すことで境界層剥離を抑え、結果的に空気抵抗を減らす効果を持つものだった。

 ひと昔前なら、空気流はできるだけスムースに流したほうが抵抗を小さくできると考えられていたが、境界層剥離の視点に立つと、意図的に空気流を乱したほうが結果的に空気抵抗が減少するととわかったためである。

 ちなみにこの境界層剥離の発生、航空機の分野では失速の原因となるため非常に重視される事象である。

 現代は、走行中に発生する空気抵抗は、性能の低下につながり、動力性能だけではなく燃費性能、つまり二酸化炭素の排出量にも悪影響をおよぼすため、量産車においても空力性能は必要不可欠な性能項目として考えられている。


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