この記事をまとめると
◾️EVは脱炭素社会の切り札として扱われてきた
◾️EVもライフサイクル全体では脱炭素とはいい難い
◾️さまざまなパワートレインを併売するのが妥当という風潮が広がっている
EVシフト停滞の理由とは
「EVは踊り場」。そんな表現が最近、経済関連のテレビニュースやネットニュースで目立つようになった。ここでいう「踊り場」とは、それまでの成長がひと段落して、次の成長に向けて伸びかたが緩やかになったという意味だ。
EVといえば、脱炭素の筆頭として注目されることが多い。改めてだが、脱炭素とは、地球温暖化を可能な限り抑えるために、大気の温度を上昇させる温室効果ガスのひとつ、二酸化炭素(CO2)を減らすことにつながる発想だ。
EVの場合、排気ガスが出ないので、脱炭素のクリーンなクルマという解釈がある。
そんなEVだが、燃料(電力)の観点では、脱炭素を実現させるために化石燃料と呼ばれる原油(石油)から精製するガソリンやディーゼル燃料ではなく、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー由来の電力を使うことが求められるという考え方がある。
また、一般的な電力の場合、石油、石炭、そして天然ガスなど化石燃料を由来とすれば、それをEVで使っても完全な脱炭素だとはいえないという解釈もある。
さらには、EVで使う電池、車体、内外装部品、タイヤなどを製造する上で、素材から材料の製造や加工、さらに部品や完成車の輸送などでCO2が発生しているのだから、EVでも脱酸素とはいい切れないという考え方もある。
こうした発想のことを、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)と呼ぶ。
このように、「EV=脱炭素」と一概にはいえないのだが、近年はやたらと脱炭素のためにEVシフトがグローバルで加速していった。背景にあるのは、政治の動きだ。国や地域での経済活性化や、投資を促進するため、国や地域がEVシフトを2010年代後半から政策として強く打ち出した。
具体的には、欧州連合(EU)のグリーンディール政策や、アメリカのインフレ抑制法(IRA)がある。また、中国は2000年代後半から中国全土を対象としたさまざまなEV関連施策を講じてきており、2010年代中盤以降は欧米の環境施策を注視しながら、新エネルギー車(NEV)にかかわる政策を調整してきたという経緯がある。
一方、日本の場合、業界団体の日本自動車工業会が中心となり、脱炭素、つまりはカーボンニュートラルに向けた方針は「EVシフトだけではない」として、日系メーカー各社の意思統一を図ってきた。日本としては、ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・クリーンディーゼル車・燃料電池車・EV・水素燃料車など、国や地域の社会環境に応じて作りわける(売りわける)という戦略を貫いてきた。
そうしたなか、2023年に入り、欧米中の株式市場における環境施策に伴う投資が過剰となり、EVシフトが踊り場に入った。
結果的に、日本がとってきたこれまでの全方位戦略が妥当ではないのか、という印象がグローバルに広がり始めているものと考えられる。
ただし、中長期的にはEV需要はさらに高まることが予想される。