この記事をまとめると
■ポルシェ911の最新型ではスターターがプッシュ式に変更された
■従来のロータリー式はル・マンに由来するポルシェの哲学を反映したものだった
■新旧の操作感の違いは、ユーザーの嗜好に委ねられるといえるだろう
911に起きた小さくも大きな転換
ポルシェ伝統の911シリーズは、現行モデルの992型で、1963年にデビューした初代モデルから数えてじつに8世代目となる。その992型911はいま、恒例ともいえるビッグマイナーチェンジのタイミングにあるわけだが、それは世界中のポルシェファンにとって、進化のレベルを知る上では非常に重要なモデルたちといえるだろう。
ポルシェ911(992型後期)のフロントスタイリング画像はこちら
ここではそのマイナーチェンジがどのような内容であったのか、その詳細をすべて語るつもりはない。注目すべきはただひとつ。運転席側のドアを開け、ドライバーズシートに収まったときにまず気がつく変化だ。
そう、スターターがこれまでのロータリー式(実際にはほとんどのモデルがキーを模したエントリー&ドライブシステムを装備していた)から、プッシュボタン式へと変更されたことに対する印象の変化だ。
ポルシェ911(992型後期)のスターターボタン画像はこちら
ポルシェといえば、これまで頑なにロータリー式のスイッチを採用しつづけてきたが、これはダミーのキーのようなデザインをしたポルシェ独特のデザインをもつものだった。ちなみに、このポルシェエントリー&ドライブシステムはオプション設定の扱いとなり、それを選択しなければ、そのロータリースイッチの位置にキーを直接差し込む仕組みとなる。
ポルシェが採用してきたロータリー型シリンダー画像はこちら
それではなぜ、ポルシェはいままでロータリー式のスイッチにこだわってきたのだろうか。筆者は一度、911系モデルの試乗会でそれを聞いたことがある。担当者からの答えはとてもシンプルだった。「ル・マン24時間に象徴されるポルシェのモータースポーツの歴史に敬意を表し、スタート時にはキーを捻ることを第一の作業として残しておきたかったから」というのがその理由である。いついかなるときでも、ポルシェはキーを捻ってスタートする。いかにもスポーツカーメーカーたるポルシェが掲げた基本理念だ。
かつてのポルシェのキー画像はこちら
だが、自動車のキーが進化を遂げ、ドアの開閉やエンジンのスタート&ストップ以外に多くの役割を担うようになると事情は変わってくる。いわゆるスマートキーと呼ばれる最新世代のキーは、クルマで移動するたびにわざわざ取り出すものではなくなり、ドライバーが携帯するものへと変化。そのスマートキーが車内に存在することを認識することで、エンジンスタートの準備は整うのだ。
ポルシェのスマートキー画像はこちら
ポルシェの場合も、もちろんそれは例外ではない。実際に採用されたプッシュスイッチは、個人的にはややそのクオリティには不満を感じるものだったが、これまでの捻るという操作から押すという操作への違和感は、オーナーであれば短い時間でなくなるに違いない。
ポルシェ911(992型後期)のインテリア画像はこちら
これからセールス面での主力となってくるだろう、いわゆる後期型の992型911。プッシュボタンでのドライブスタートは、はたしてそのカスタマーに優越感を与えるだろうか。それとも、長年使用されてきたロータリースイッチとエントリー&ドライブシステムに、ポルシェらしさとその哲学をより大きく感じるだろうか。もちろんそれ以前のシンプルなキーによる操作も選択肢のなかにはあるはず。
それは最新を好むか、ノスタルジックな雰囲気を好むかの、カスタマーの趣味にも左右される問題なのである。