ガレージの気になる中身
まずチームのガレージだが、これはサイズが全チーム共通となっており、最低限の素材で組み立てられるサスティナブルな物となっているほか、もち運べる機材量や移動方法は原則船便と決まっている。電気自動車のレースなので、環境に配慮した仕組みになるのは当然といえば当然だが、聞けば聞くほど「ここまでやるか!」である。
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ガレージ内にはマシンが2台置かれており、中央部には前述の「ピットブースト」を行うための600kWの超高速充電が設置される。600kWというこの数字、日本国内にある急速充電器の最高スペックが150kWなので、なんと4倍の数値。ただし、各ピットに1機しかないので、ピットインが義務というルール上、戦略がキモとなる。
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テント内や車両の解説などをしてくれたのは、2025年3月までチーフパワートレインエンジニアを務めていた西川直志さんだ(現在は市販車の開発主管)。
ただ、マシンがメンテナンス中でほぼバラバラの状態だった都合もあり、テント内の写真はほぼNGであった。そんななかで西川さんは日産がフォーミュラEに参戦する理由を次のように語った。
「日産がなぜフォーミュラEに参戦するのかですが、まずはこのカテゴリーが世界規格のFIA公式戦であること。それと日産は”電気の日産”を語る以上、マーケティングの面でもこういった活動は欠かせません。日産は電気を通してワクワクを伝える使命があります。そういった意味ではこのカテゴリーは非常に重要です」
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しかし西川さんは、「とはいえ、フォーミュラEで培った技術が市販車に使えるかどうかと言うとぶっちゃけ難しいです……(笑)。では何が使えるか。それは開発現場としてです。レースという極限の現場で必要な開発ノウハウや開発プロセスは市販車の開発時に大きな武器になります。いままさにそれを感じている最中です」と、フォーミュラEに日産が参戦する意味を改めて語った。
なお、このフォーミュラE、バッテリー出力は毎戦FIAが決めたぶんしか使えないかつ、普通に走ったら足りない量を設定してくるそうだ。なので、回生でいかに取り戻すかが重要となる。西川さんは、「東京E-PRIXでは44%ほど回生で補っている」と語る。つまり、50%弱は取り戻せるということだ。もしもこんなにも回生でエネルギーを取り戻せる市販車が仮に登場したら革命的だと、ちょっと期待してしまう。
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作業中で撮影がほとんどNGであったピットで、唯一撮影許可が降りたモノがGEN3時代のステアリングだ。非常に複雑なスイッチ配列となっており、正面のモニターには各ドライバーが映したい好きなデータが出せるとのこと。西川さんは「フォーミュラEはバッテリー残量の件もあるし、こんなスイッチだらけのステアリングを握るものだから、走りながらかなり頭を使うんですよ」と、ドライバーの声を代弁。
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なお、西川さんがこの見学会中に、「FIAが公表しているGEN3EVOのスペック、たとえば、0~100キロの加速にかかる時間が1.86秒であったり、現行のF1マシンよりも30%速い(最高速度322km/h)という話。あれはじつは……」という意味深な発言も。詳細は結局聞けなかったが、いったいなんだったのだろうか……!?
最後にせっかくなので、西川さんに車両の構成を聞いてみた。すると西川さんは「フォーミュラEで使われるGEN3EVOの車両は、シャシーやモノコック、フロントモーター、タイヤは全車ワンメイク。リヤのモーターなどは各メーカーが手掛けています」と教えてくれた。
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ガレージの外では、見学や展示で使うものなのか、それとも配線がある程度は見えたので予備の車両なのか……の車両にデカールを貼り付ける作業も行われていた。今回の東京E-PRIXでは、昨年のチームのモチーフでもある桜をメインとしたデザインを受け継ぎつつ、イラストレーターの吉田健太郎さんが書き下ろした、懐かしの8ビットビュジュアルを取り入れ、レトロゲームをフィーチャーしたデザインとなっている。奥にはさまざまなステッカー素材が用意されており、職人が切り貼りしていた。
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今期絶好調である日産陣営は、クラッシュなどもあり荒れ気味となった16日のフリー走行においてナトー選手が1分12秒152を記録しトップタイムを叩き出したほか、ランキング首位を走る日産のエース、ローランド選手も3番手に入る快走を披露。
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余談だが、タイムはGEN3EVOになったおかげか、昨年にローランド選手が出した予選最速タイムの1分18秒855から6.7秒も速いタイムである1分12秒152であった。コースが若干異なるにしろ、相当マシンが進化しているといえよう。
17日と18日にかけて行われる2戦の結果が楽しみである。そんなガレージツアーの一幕であった。