ただのセダンに見えるが……フェラーリのV8搭載だと!? ランチア・テーマ8.32という衝撃の爆速セダン (2/2ページ)

心臓部にはデチューンされた跳ね馬のエンジン

 そのテーマに、ここでの主題である「8.32」が1986年に追加設定されたのは、前でも触れたとおりだ。デビューは同年のトリノショー。これまでのラインアップの、さらに上級に位置する高性能なモデルというだけでは、トリノからさほど大きな話題は放たれなかったのかもしれないが、最大の注目点は、フロントに搭載されるエンジンにこそあった。

 エンジンカバーの上に赤くペイントされた帯には、なんと「LANCIA by FERRARI」の文字があった。そう、ランチアのサルーンがフェラーリ出自のV型8気筒エンジンを搭載するに至ったのである。

 ちなみに8.32という数字は、V型8気筒のDOHC32バルブを意味するものであり、排気量は3リッターとフェラーリの308クワトロバルボーレ系のそれと等しい。さらに大きく異なるのは、フェラーリが180度クランクを使用していたのに対して、ランチアはより高い快適性を考慮して90度クランクを選択したこと。燃料供給もボッシュ製のKE3ジェトロニックに改められている。最高出力は215馬力にまで若干低下してしまったが、284Nmの最大トルクは大柄なテーマのボディをストレスなく加速するには十分なものだった。

 また、ランチアは1991年にはこのエンジンスペックを200馬力&263Nmに引き下げるが、それでもテーマ8.32は最高速で240km/h、0-100km/h加速では6.8秒というパフォーマンスを発揮することに成功した。

 テーマ8.32に採用されたメカニズムでもうひとつの見どころは、トランクリッド上に収納される可変式のリヤスポイラーだろう。これは、ドライバーが必要時に任意で使用や収納が可能なもので、収納時にもなおトランクリッドには十分なラゲッジスペースが確保されていた。

 エンジンカバーの演出のみならず、前後のホイールやフロントグリル、あるいはさらに高級な本革やローズウッドを使用したインテリアを採用するなど、至るところでフェラーリのデザインや雰囲気を感じさせたテーマ8.32。それは現在では貴重なコレクターズアイテムとなっていることは、間違いのないところだろう。


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山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

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