この記事をまとめると
■フォードには不名誉な形で自動車史に名を残す「ピント」というコンパクトハッチがある
■ピントは後部からの衝突でガソリンタンクが破裂して火災を起こす危険性があった
■のちに映画でデフォルメされてギャグになるほど人々の記憶に刻まれた
開発期間の短さとコストの問題から欠陥車のまま発売
フォードの「ピント」と聞いても、ピンとこない人がほとんどだろう。まず、フォードはいま、日本に正規輸入されていない。なおかつ、ピントは1970年代の旧車であり、日本ではほぼ流通していない希少車なのだから、日本でその名を知らない人が多いのは当然だ。
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そんなピントは、不名誉なことで自動車産業史に名を残している。後部からの衝突の際、ガソリンタンクの周辺構造に関する衝撃吸収が十分ではなく、最悪の場合は火災を起こす危険性があるとされた。
当時の関連記事を見てみると、原因は商品企画から販売までの期間がかなり短く、衝突安全性に対する配慮が不十分だった点を指摘している。
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そこには、大きくふたつの背景があると思う。
ひとつは、アメ車の小型化だ。アメリカといえば、大きなボディサイズ、迫力あるエクステリアデザイン、広くてゴージャスなインテリア、排気量が大きくトルクフルなエンジン。そんなイメージが第二次世界大戦後から長らく続いた。そして、1960年代にはモータースポーツを活用したハイパフォーマンスカーが続々登場するなど、ガソリンを大食いするクルマが増加した。
そうなれば当然、大気汚染は深刻l化する。1970年に、いわゆるマスキー法である大気清浄法が施行された。これを受けて、アメリカメーカーは一気に小型車の生産を強化する必要に迫られたのだ。そうしたなかで、短期間で世に出たピントに欠陥が生じたといえよう。
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もうひとつが、衝突安全に対する意識の甘さだ。いまでは、日本でのJNCAP(ジャパン・ニュー・カー・アセスメント・プログラム)、またアメリカではFMVSS(連邦自動車安全基準)や、IIHS(米国道路安全保険協会)などにより、衝突安全に対する高い基準が設定されており、自動車メーカー各社は衝突安全、また衝突する前の予防安全について技術革新を続けている。
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1970年代にも、衝突安全に対する考え方は存在したものの、現在と比べると解析技術が進んでいなかったことで、結果的にピントのような事例が発生してしまった。
そんなピントを皮肉った場面を、とあるアメリカ映画で目にした。1990年代にアメリカで見たコメディ作品で、映画タイトルは覚えていないが、主人公が後続車に追われるシチュエーションで、なんとか追っ手を振り切ったという場面だった。前方に止まっているクルマがあり、慌ててフルブレーキ。なんとか、衝突を避けられたと思ったが、最後の最後に前車のリヤパンパーに「コツン」と軽く接触する。すると、前車のエンブレムが大写しに。そこに「Pinto」とある。次の瞬間、ピントは爆発するというシナリオだ。
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ここまでデフォルメするコメディが通用するほど、1990年代でも多くのアメリカ人にとってピントのネガティブな印象が残っていたということだ。