この記事をまとめると
■初期4WSは操縦性に癖があり、HICASなど同・逆位相制御に試行錯誤があった
■1980〜90年代には多くの車種で採用されたが、前後異サイズタイヤの普及で一時下火に
■近年の4WSは取りまわしと安定性を両立し、自然で違和感のない操縦感覚を実現している
1980年代に市販車で実用化されブームとなった4WS
後輪操舵として強く印象に残っているのは、1985年に登場したHICAS(ハイキャス)だ。これが市販乗用車初の4WSだった。HICASは、R31スカイラインに初めて設定されたFR用後輪操舵システムで、同位相のみの制御だった。その後、S13シルビアに搭載されたHICAS IIになって、低速でハンドルを切ったのと逆方向に後輪を操舵する逆位相制御が加わった。
日産スカイライン(R31)のフロントスタイリング画像はこちら
1980年代半ばになると、国内のさまざまなメーカーから4WSが登場。具体的には、ホンダ・プレリュード、トヨタ・セリカ、コロナエクシブ、カリーナED、ビスタカムリ、クラウンマジェスタ、三菱ギャラン、マツダ・カペラなどに用意されていた。
当時の4WSは操縦性に癖があり、とくに同位相側でハンドルを切ると、クルマ自体がコーナーのイン側に寄りたがるような動きがみられた。つまり、コーナーに向けてハンドルを切り出していくと、クルマの走行軌跡が意図した走行ラインよりもイン側に寄っていってしまう傾向があった。
4WSを採用した初代トヨタ・コロナEXiVのリヤスタイリング画像はこちら
これに関しては、リヤ操舵の作動タイミングに問題があったのではないかと思う。と同時に、4WSの評価が高くならなかった大きな要因だったように思う。
改めてクルマが曲がるメカニズムを考えてみると、まずハンドルを切ると前輪にスリップアングルが発生する。これによってコーナリングフォースが立ち上がり、フロントタイヤが主導する旋回運動が始まる。この旋回によって後輪にも少し遅れてスリップアングルが発生しサイドフォースが発生する、というのが通常の前輪操舵の旋回メカニズム。
後輪操舵は、後輪に舵角を与えることで、意図的にスリップアングルを素早く発生させ、後輪の俊敏性や安定性を高めるメカニズムだ。ちなみに、低速側で行われる逆位相制御時は、まず前輪と逆方向に操舵されるので、スリップアングル→コーナリングフォースの発生も逆になるため、Z軸方向の動きとしてはヨーモーメントを強く発生させる方向に働く。
4WS搭載車のコーナリング画像はこちら
当時試乗した記憶と照らし合わせてみると、逆位相となる40~50km/hくらいで操舵したときの印象はリヤが軽く外にもっていかれるような動きが感じられた。車速が低いこともあって、操縦安定性を損ねるほどではなく、感覚的には機敏に曲がり出すようなものだった。
また、同位相制御になる80km/h以上(車種により異なる)では、ハンドルを切り出すと、後輪も同方向に切れるため、リヤタイヤに前輪と同方向のスリップアングルが発生し、これに伴ってコーナリングフォースも発生。リヤタイヤまわりの安定感が増している感覚が感じられた。
実際に走った印象でも、後輪の安定性が高くなっていて、安心感、安定感が高まっているのを実感することができた。ただ、シルビアK’sのHICAS IIだと、14対1というクイックなステアリングギヤ比であることも手伝って、サーキットでは無造作にハンドルを切るとリヤの安定性が勝り、フロントタイヤからズルズルと外側に逃げていく、いわゆるアンダーステアが出やすかった。
4WSを搭載した日産シルビア(S13)画像はこちら
ユニークだったのは、ホンダ・プレリュードに採用されていた機械式4WS。ステアリングギヤボックスから機械的につながったギヤで後輪の舵角を制御するシステムで、小舵角は同位相、大舵角は逆位相というものだった。
面白かったのは、タイトなコーナーで、オーバースピードでアンダーステアが出てしまったとき、ハンドルを切り足していくと、後輪が逆位相に切れ旋回を助けてくれた。とくに雪道では曲がらないときにハンドルをグイグイ切り込んでいくと、リヤが曲がり出すような感覚で曲がりにくさをアシストしてくれた。
4WSを搭載したホンダ・プレリュード画像はこちら
4WSによる運転の違和感は、4WSが登場した初期のころこそ顕著に感じられたが、1989年登場のスカイラインGT-Rに搭載されていたスーパーHICASの時点で、ほぼ違和感のない操縦感覚を作り出していた。
とはいえ、4WSによるメリットである操縦安定性の向上は、前輪より後輪の太い前後違いのタイヤサイズによってほぼ解消することができるため、国内では積極的に4WSは採用されなくなっていった。