戦争に負けてもただでは起きないフォルクスワーゲン
Thing(シング)
クーベルワーゲンは戦後、いくらか化粧直しをされて民生用として販売されています。それが1971年からデリバリーされたタイプ181、通称「Thing=物」。この愛称はタイプ181があまりにそっけないスタイルから、無機質的な物のように見えたことから付けられたようです。
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ビートル同様、空冷フラット4エンジンのRRで、クーベルワーゲンよりは出来のいいソフトトップを備え、また車名の由来となったバケットシート(ドイツ語でクーベルジッツ)に代わってベンチシートとなるなど、質素ながらも実用には十分なクルマとなったのです。
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ところが、このミニマムなスタイルやバタバタいうエンジンがカルト的な人気を得てしまいます。当初はメキシコあたりの農家が主な客層でしたが、そのうち有名なリゾートホテルが送迎用にスペシャルエディションを注文するなどして、シングの知名度と存在感はマシマシに。テレビ番組やアニメに登場したことも人気に拍車をかけたのでしょう。
実際、生産台数も10万台弱と多めで、現在でもオークションには数多く出品されています。コンディションのよくないタマでも100万円ほどしており、低走行でノンレストアだったりすれば500万円の値が付くこともザラ。転んでも(戦争に負けても)ただでは起きないフォルクスワーゲンの根性を感じさせる1台です。
イルティス
1978年にフォルクスワーゲンがドイツ軍に納品した軍用車、タイプ182、通称イルティス(ドイツ語でイタチの一種)はさすがにクーベルワーゲンの流用とまではいきませんでした。そもそもは、EUが提唱した「エウロパジープ」という軍用車の計画に応えて開発したものでしたが、EUサイドの問題で計画はキャンセル。
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フォルクスワーゲンが泣きついたのか、ドイツ軍が採用テストを行い、競合となったメルセデス・ベンツ・ゲレンデワーゲンに比べて圧倒的な価格の安さから採用されたというもの。クーベルワーゲン並みのプレスしただけの鉄板ボディとかアウディ用の4気筒エンジンとか、そりゃあコストもかかりませんよね。
このアウディ用エンジンでお気づきのとおり、イルティスはフォルクスワーゲンが1965年に買収していたアウトウニオン、のちのアウディに開発を任されていたのです。アウディは戦時中からクーベルワーゲンやシュビムワーゲンが採用してきた全輪駆動システムのアップデートも積極的に行っていたため、イルティスにも最新の全輪駆動システムを採用。のちに、クワトロと呼ばれることになるシステムだったというわけ。
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なお、1980年にイルティスはパリダカールラリーに参戦し、なんと総合優勝を勝ち取っています。また、4台エントリーしたうちの1台(総合9位)には、密かにアウディ製直列5気筒エンジンが搭載されていたとか。
まったく、軍用車として開発しつつ市販車のテストベッドにするなど、フォルクスワーゲンというメーカーは油断も隙もありません(笑)。