この記事をまとめると
■自衛隊トラックは軍用車両として市販車とは異なる設計思想で開発されている
■主力の大型トラック「3 1/2tトラック」は東日本大震災でも大活躍した
■実用性重視の特大型トラックや業務トラックは市販車をベースにしている
自衛隊トラックの特殊設計と市販車との大きな違い
独特のつや消しグリーン(オリーブドラブという)のカラーに高い車高とゴツゴツした荷台。そんな自衛隊のトラックを一般道や高速道路、サービスエリアなどで見かけた人も多いだろう。日本の防衛を担い、ときには災害時の強い味方となってくれる陸上・海上・航空の各自衛隊が使用している専用のトラックは、戦地(演習場)や災害現場、海外の紛争地帯などの特殊な場所での使用に耐えるため、キャビンとボディ(荷台)、そして足まわりといったメカ部分も市販のトラックとは別設計で開発されている。これらは軍用車両であり、未舗装の不整地を走ることが前提になっているため、全輪駆動(AWD)になっているのも大きな特徴だ。
73式中型トラック(1 1/2tトラック)のフロントスタイル画像はこちら
一般のトラックでは荷台に乗員を乗せて公道を走行することは「荷物を看守する場合」や「警察署の許可を得た場合」という一部例外を除き禁止されている。だが、自衛隊のトラックの場合、「道路運送車両法」とは別の法規「自衛隊法」によって認められている。また、荷台には隊員が乗車するための折りたたみ椅子(木製サイドラック)が装備され、リヤのアオリには乗り降りのためのはしご型ステップも付いている。乗車定員も決められており、寒冷地仕様の車両には荷台に暖房も用意されているという。ここではそんな自衛隊のトラックについて、それぞれ車両別に解説していきたい。
■73式大型トラック(3 1/2tトラック)
一般道などでもっとも多く見られる自衛隊のトラックといえばこの73式大型トラックだろう。この車両は1973年(昭和48年)より調達が開始された。製造しているのは「いすゞ自動車」で、現在のモデルで8代目となる。2003年(平成15年)度以降の納入車両は製造コストの削減および一部パーツの民生品との共通化、そして民生車両との製造ライン共用の関係から「3 1/2tトラック」と名称が変わっている。
73式大型トラック(3 1/2tトラック)のフロントスタイル画像はこちら
この「3 1/2t」とは「3トン半」の標準積載量のこと。悪路走行時や慎重な取り扱いが必要な物品を運ぶときの最大積載量となっている。これとは別に、一般道を走行するときの最大積載量も設定されている。なお、乗車定員は標準ボディの車両が22名、ロングボディの車両が24名となっている。
自衛隊員たちの間では「SKW」「大型」「3t半(さんとんはん)」「カーゴ」の愛称で呼ばれている73式大型トラックは、東日本大震災の際にはほかの自衛隊車両が津波による水没で走行不能になるなか、唯一この73式大型トラックのみがフル稼働し、その耐久性の高さを実証していた。
73式大型トラック(3 1/2tトラック)のリアスタイル画像はこちら
ちなみにデコトラなどトラックのプラモデルを数多くリリースしているアオシマ(青島文化教材社)から「73式大型トラック」のプラモデルも発売されている。現行モデルの標準幌ボディのほか、航空用燃料タンク車や隊員6体のフィギュア付きセット、隊員20体乗車セット、同車の先代モデルなどさまざまなバージョンがラインアップされている。
■73式中型トラック(1 1/2tトラック)
73式中型トラックは、先述の73式大型トラックと同じく1973年調達開始。日野自動車とトヨタ自動車の共同開発で、現在の車両は1990年(平成2年)に採用された高機動車(この車両の民生モデルがメガクルーザーだ)のシャシーを使用している。
この車両も73式大型トラックと同様、2003年(平成15年)より「1 1/2tトラック(通称1トン半)」と名称変更されている。幌ボディの荷台に隊員を乗せることも可能で、乗車定員は18名となっている。
写真の73式中型トラックは救急車として架装された「1 1/2t救急車」で、完全クローズドのボディとキャビンをもつパネルバン。キャビンとボディの間には中央にドアがあり、行き来ができるようになっている。
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荷室内には左右に二段ベッドを装備し、また中央にも担架を設置でき、合わせて5名の人員を搬送することができる。また、二段ベッドは上段を畳めば長椅子としても活用でき、左右4名ずつの合わせて8名を座ったままで搬送することも可能だ。車内の医療用資機材は、消防で使われている高規格救急車と同じものが装備されている。
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73式大型・中型トラックはいずれもキャビンが独特の角張った形状になっているのも大きな特徴。これはいざ有事(戦闘)となった際にはキャビンに防弾板を装備したり、カモフラージュの偽装をするためで、キャビンのルーフは取り外し可能である。