刺さる人だけが乗ればいい贅沢なクーペ
第二の飛び道具となる「S+シフト」は、電動化時代における希望の光だ。
モーター駆動が主軸となる現代的な国産系ハイブリッドの走りは、確かに滑かだけれど、没個性になりがち。しかしプレリュードは、コンソール上の「S+シフト」ボタンを押すだけで、ほぼ発電機として使われる直列4気筒エンジンを、あたかも8速AT付きユニットのように操作できる。
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ホンダはシビックにe:HEVを用いたときから、そのエンジン制御に疑似ステップを与えていたが、プレリュードではそれがより明確になった。アクセルを踏んだまま右側パドルを引けば、一瞬エンジン回転がドロップしたあと、瞬時にそのサウンドを盛り上げて行く。
減速時には左側パドルを引けば、リズミカルにエンジン回転が跳ね続け、シフトダウンを演出してくれる。
3つのモードに応じて変速スピードが変化するのも面白い。「コンフォート」モードでは鼻歌まじりに、「GT」モードではスポーティに、「スポーツ」モードではちょっと熱く。合わせてEPSや可変ダンパーもキャラ変して行くから、気分に応じた走りが楽しめる。
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ちなみにこうしたステップ制御を与えながらも、燃焼モードが高効率領域内に収められているのも芸が細かい。
ただ、個人的にはスポーツモードならもっと刺激的でもいいと感じた。ヒョンデ アイオニック5Nばりにモーター制御でクラッチミートを演出したり、疑似的なバブリングサウンドを響かせろとまではいわないが、もっと車内にエンジンサウンドを響かせ、モーターの蹴り出し感を際立たせてくれたらいいのにとは思う。
残念ながらこの2リッターe:HEVは完成度が高すぎてこれ以上モーターやエンジンの出力を上げることは現状できないという。だからこそのS+シフトなわけだが、となるとフィットやフリードといった生活密着型の小さなクルマたちのほうが、目くじら立てずににこのシステムを楽しめる気がする。
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そうはいいつつも、S+シフトとスポーツモードを駆使したプレリュードの走りはホットだ。そして、とてもレベルが高い。
タイプR譲りのデュアルアクシスストラットは、可変ダンパーのダンピングを使って路面を確実につかむ。ターンインから作動するようになったというアジャイルハンドリングアシストには違和感がないし、ショートホイルベースがもたらす回頭性に対して、カーブではシャシーが懐深く踏ん張ってくれる。
だからターンアウトでは気もちよくアクセルを踏み出せるし、それと同時にトルクがリニアに立ち上がる。そして心地いいサウンドをシンクロさせながら、エンジンがステップ制御でシンクロしてくれる。
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かたやアダプティブ・クルーズ・コントロールの制御もかなり進化していて、合流車線からの割り込み車両をスムースに迎え入れたアクセルコントロールなどにはとても感心した。LKAS(車線維持支援システム)の操舵も自然で、車線中央のキープ力も高く、その走りには癒やしが感じられるほどだった。
使い勝手としては、身長171cmの筆者だと、後部座席に座ったら後頭部がガラスに当たる。だからリヤシートは子どもが使う以外完全なオマケだが、その分トランク容量は常用で264リットル採られているし、アンダーBOXにはさらに5リッターのスペースが隠されている。また、後部座席を倒せば663リットルにまで拡大できるから、ふたりで旅行するならおそらく問題はないだろう。
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ただ、フロントシートが手動式なのは、プレリュードを名乗るなら要改善だ。しかしホールド性が高い運転席に対して、助手席側を柔らかな座り心地にして乗り降りしやすくしているのは、配慮が細かい。
税抜き561万8000円という価格は、現代の物価を考えれば精一杯の値付けで、決して高くはない。そしてこうしたハードルがあるからこそ、その壁を乗り越えて手に入れたユーザーのプレステッジステージが確保される。クーペとはそういう乗り物であり、このスタイリングと乗り味に惚れ込んだ人だけが、プレリュードに乗ってほしいと強く思う。
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