この記事をまとめると
■モータースポーツ業界には2世ドライバーが多い
■遺伝子的な関係のほかにレース現場に近い環境で育っている影響も大きい
■交友関係の広さだけでなく資金力の面でも有利に働くケースも珍しくない
レース業界に2世ドライバーが多い理由
日本の政治家は、世襲議員の割合が高く、25~30%は世襲議員といわれている。イギリスなど議院内閣制の先進国では、親族が同じ選挙区で立候補する習慣がない国も多いので、日本の選挙に対する成熟度の低さは情けない限りだが、公権力と関わりのない分野なら、家業を継ぐのは問題ではない。
とはいえ、近年、モータースポーツの世界でも2世ドライバーの活躍が目立っているのは気になるところ。
F1ワールドチャンピオンのマックス・フェルスタッぺン(父:ヨス・フェルスタッぺン)、ニコ・ロズベルグ(父:ケケ・ロズベルグ)、ジャック・ヴィルヌーヴ(父:ジル・ヴィルヌーヴ)、デイモン・ヒル(父:グラハム・ヒル)などを筆頭に、カルロス・サインツJr.、ミック・シューマッハ、ジュリアーノ・アレジ、ネルソン・ピケJr.、ジャック・ドゥーハンなどが、有名な2世ドライバーとして認知されている。
日本人では中嶋一貴、星野一樹、柳田真孝、黒澤琢弥、黒沢治樹、中野信治、脇阪寿一なども有名どころ。
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では、彼らがメジャーなレースに出場し、活躍できるようになったのはなぜか。
一般論として、トップドライバーから受け継いだ、レーシングドライバーに適した遺伝子、才能が有利に働いていることに加え、本人が努力して成り上がった点ももちろん大きい。しかし、世襲政治家と同じく、地盤(組織力、コネクション)、看板(知名度)、かばん(資金力)の影響も見逃せない要素のひとつ。
レースをやるには、まずレースの存在を知らなければならない。F1でも地上波での放送がない昨今、身近な人にモータースポーツ好きがいないと、幼いときからレースに興味をもつことはまずないのが実情だ。
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そしてモータースポーツに接して、興味をもっても、親の理解がなければ、レースの観戦にすら行けないし、ましてや大金が必要なレーシングカートなど始めることは不可能だろう。つまり、レースの第一歩は、親を説得することから始まるといっても過言ではない。その点、親がレーシングドライバーであれば、圧倒的に話が早く、それだけで壁がひとつ取り除かれる(星野一樹は例外的に、父である星野一義から10代のころはずっとレースをやることを反対されていたそう)。
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つまり、レースに理解のある環境にいることが、第一の関門だということ。
そして、「レースをやりたい!」となったとき、どこで何から始めるかも非常に重要。カートをやるにしてもいろいろなカテゴリーがあり、チームもたくさんある。そこから、最適なカテゴリーと、実績あるチームを探すのも容易ではないが、父親がレース界の重鎮なら、豊富な情報網、コネクションがあるので、ここでつまずく心配もなく、実力さえあればスムースにステップアップすることも、一般家庭と比較したら有利だ。
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そしてなによりも重要なのが資金力。
レーシングカートでも全日本レベルで戦おうと思えば、年間予算は1000万円程度では足りないといわれる。本格的なフォーミュラカーを使う、ホンダ・レーシング・スクール鈴鹿(四輪・Formulaクラス)に入校するには、選考会を通過した人のみが受講できる8日間のアドバンスコースで、なんと460万円もの入校金が必要に……。
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こうした費用をポンと出せる財力と、レースへの理解度の両方が欠かせないことを考えると、有名ドライバーの息子はかなり有利といえよう。
そしてスポンサー集めやステップアップに関しても、速さが同等なら、有名ドライバーのDNAがあるドライバーが選ばれる確率も高くなる。こうした事情が、モータースポーツに2世ドライバーが多い理由といえるだろう。