マインドセットで抑えられる
そのいっぽうで、割り込みや渋滞などの「思いどおりにいかない事態」に直面すると、それまで分泌されていたドーパミンが遮断され、強い不快感が生じる。このとき、感情を抑制する「セロトニン」という物質が不足していると、怒りをコントロールできず、衝動的な行動(煽り運転や暴言)に直結する。とくに寝不足や空腹、仕事の疲れなどでセロトニンが枯渇している状態のドライバーは、科学的に見て「嫌なヤツ」になりやすい条件がそろっているといえる。
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他人のミスには厳しく、自分のミスには寛大であるというのもドライバー心理の特徴だ。これを心理学で「基本的帰属の誤り」と呼ぶ。たとえば、他車が急な車線変更をしてきたとき、我々は「あいつは乱暴な性格だ」「マナーの悪いヤツだ」と、相手の状況ではなく「人格」に原因を求めがちだ。しかし、自分が同じように急な車線変更をしたときは「出口を間違えそうだった」「急いでいた」と、状況のせいにする。この認知の歪みが、「まわりはバカでマナー知らずなドライバーばかりだ」という被害妄想に近い敵対心を生み出し、周囲に対抗するための大義名分を与えてしまうのである。
要するに、クルマに乗ると性格が変わるのではない。クルマという環境が、人間が本来もっている「縄張り意識」「匿名性による解放」「全能感」を、科学的に引き出してしまうのだ。
では、どうすれば「嫌なヤツ」にならずに済むのか? もっとも有効なのは、自分が今「拡張身体」や「没個性化」の状態にあるということを、客観的に自覚すること。つまりはメタ認知をすることである。「今、自分は脳の仕組みのせいでイライラしているな」と一歩引いて考えるだけで、感情的な爆発は抑えやすくなる。
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クルマは本来、我々の生活を豊かにし、移動の自由を与えてくれる素晴らしい道具だ。そのハンドルを握る権利をもつ我々は、ただただ脳のバグに振りまわされるのではなく、科学的に己を律する知性ももっていなければならない。今後、路上で「嫌なヤツ」に出会ったときは、こう思うようにすればいいだろう。「……あの人は今、脳内のセロトニンが足りてないんだろうな。かわいそうに」と。それだけで、あなたの車内は少しだけ平和になるはずだ。