この記事をまとめると
■旅客機はトーイングカーで駐機場から押し出される
■数百トン級の航空機を安全に牽引するためのギミックが満載
■運転には社内訓練・試験を経た専門資格が必要となる
フライトを支える縁の下の力もち
空港の展望デッキから飛行機を眺めていると、出発時に機体の鼻先を不思議な形の車両が押し出していく光景を目にする。そのクルマがトーイングカーである。そもそも、飛行機の出発時になぜそんな車両で押す必要があるのであろうか。単純に考えれば、飛行機自身がバックをすれば済む話だ。
じつは、旅客機は構造上自力で後退することが原則的にできない。あえていうなら、エンジンの逆噴射装置を使えば後ろへ進むことは物理的に可能である。しかし、ターミナルに近い駐機場でそれをやると、猛烈な排気風が空港建物や周囲の地上設備、あるいは航空機のエンジンにも悪影響を与えてしまう。そのため、まわりに影響が少ない誘導路に出るまではトーイングカーの手を借りて押してもらう必要があるのだ。
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この車両、パッと見には巨大なトラクターといった感じだが、その中身はオフロードダンプ並みのモンスターである。超重量物を数km/hで動かすためだけに特化した特殊な車両なのだ。
最高速度は30km/h程度だが、車両重量とトルクが桁外れに大きい。大型機用の車両になると、トラクター単体で40トン〜50トンもの自重がある。これは、軽い車体だと飛行機の重さに負けてタイヤが空転してしまうため、あえて鉄板などのウェイトを載せ、路面にトラクションをかける設計にしているからだ。
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エンジンは10〜15リッタークラスの超大型ディーゼルを搭載し、駆動方式は4WD。さらに、狭い場所でも小まわりが利くように、前後のタイヤが逆向きに切れる4WS(四輪操舵)を採用しているものが多い。飛行機と連結する方法にはふたつのタイプがあり、ポピュラーなのはトーバー方式。航空機の前脚と車両を、「トーバー」という長い鉄骨で繋ぐ古典的スタイルだ。あらゆる機体に対応できるが、接続・切り離しに時間がかかる。
もうひとつは、トーバーレス方式。車両後部がスリット状に割れており、航空機の前脚を直接抱え上げてロックする最新のスタイルだ。トーバーが不要で、高速かつ安全に長距離の牽引ができる。
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数百トンにもおよぶ巨体を動かす際、もっとも恐ろしいのが航空機側の前脚(ノーズギア)破損だ。トーバー方式の場合はトーバーの接続部分に、「シェアピン」という意図的に強度が落とされたボルトが仕込まれている。もし、トーイングカーが急ブレーキをかけたり無理な角度で曲がったりして、過度な負荷がかかるとこのピンが破断し、前脚を保護する仕組みになっている。
この巨大な特殊車両を操るのは、空港のグランドハンドリング(地上支援業務)スタッフだ。まず前提として、日本の航空法や道路交通法に基づき、空港の制限区域内(滑走路や駐機場など)を走行するには、「普通自動車運転免許」が必要となる(公道を回送する場合は大型特殊免許が必要)。さらに、各航空会社やグランドハンドリング会社が実施する社内訓練を経て、座学と実技の試験をクリアした者だけに「社内操縦資格」が与えられるのだ。
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しかも、この資格はステップアップ制になっている。最初は貨物カートを引っ張る小型トラクターから始まり、中型機や大型機を牽引するトーイングカーへと何年もかけてステップアップするのだ。まさに、プロ中のプロだけが許された資格だといってよい。空港に行ったときには、飛行機の巨体を牽引するトーイングカーと、そのドライバーの職人技にぜひ注目してみてほしい。