GT500クラスの秘密をNISMOが語る! 開発領域が少ないなかでライバルに差を付けるポイントとは (2/2ページ)

エンジンもほぼ共通部品ばかりであまり弄れない

 一方、気になるエンジンに関しては「各社独自のエンジンですが、燃料リストリクターとガソリンは共通です。そのほか、燃料供給システムはボッシュ、ターボはギャレットでこちらも共通部品です。インジェクターも共通部品で最高回転数や圧縮比も決められているので、正直いうと差をつけにくいのが現状です」と木賀氏は語る。

 そのうえで、開発のポイントになるのが、“熱効率”で「燃料の総量でどれだけの力を出させるのか、GT500クラスのエンジン開発は極限の熱効率競争です。市販車の場合は、燃料を多く投入してあげればパワーを出せますし、排気量を大きくしたり、回転数を上げればいいんですけど、スーパーGTではそういうことができないことから燃焼の仕方が重要になっています。理論空燃比で見るとリーン側(空気過剰)にしていかないと熱効率はよくない。その薄い燃料のリーン側でどうやってパワーを出すのか。圧縮比を上げ過ぎるとノッキングが起きてしまうし、希薄燃焼で熱効率が上がっても燃焼のスピードが遅くなってくるとノッキングが起きてしまうので、とにかく速く燃やしたい。そこで速く燃料を燃やすためにGT500のエンジンで使用しているのがプレチャンバーです」と木賀氏は語る。

 プレチャンバーとは「プレチャンバーイグニッション」(PCI)のことで、燃焼室の点火プラグ先端を小さな容量の隔壁で覆った副室(プレチャンバー)を採用している。プレチャンバー内の混合気に点火するとプレチャンバー先端のオリフィス(微細な穴)からジェット火炎が噴出し、メインチャンバー(主燃焼室)の混合気を急速燃焼させるシステムで、大幅な燃焼高速化により、ノッキングを低減できるという。

 近年ではF1やWECで採用されているが、ハイレベルな開発競争が展開されているスーパーGTのGT500クラスでも各メーカーが採用している。木賀氏によれば「プレチャンバーは副燃焼室のなかに燃料を噴くタイプもあるし、普通のプラグの上にカバーを付けたパッシブなタイプもありますが、プレチャンバーを使えば小さな穴から少量のガソリンを火炎放射器のように噴出させてシリンダーのなかのガソリンを燃やすことができる。これなら高速燃焼ができるので、熱効率がすごくいいんです」と語る。

 まさにプレチャンバーは少量のガソリンで、ハイパワーを生む技術で、BMWやマセラティなど一部の市販モデルにも採用されているが、なぜ一般の市販モデルに普及していないのだろうか?

 そのことについて木賀氏は「プレチャンバーは混合気が濃すぎてもダメだし、薄すぎてもダメなので混合気の精度が求められるんですけど、外気温が低いときのエンジン始動や負荷が軽いときの燃焼が苦手なので、普通のプラグがもう1つ欲しくなる。吸排気バルブが4つあるなか、プラグを2つ付けて、インジェクターを入れるのは、なかなかハードルが高いと思います。それに圧がかかるので、鍛造のピストンが必要になるなどハード的にも大変です」と説明する。

 以上、簡単にGT500車両の開発ポイントであるスケーリングとプレチャンバーについて木賀氏が解説してくれたが、「燃料の噴射装置は同じだし、各メーカーがプレチャンバーを使っていることから、そんなに変わらないと思われるかもしれませんが、制御の仕方が違うので、サーキットで見ていても排気音の違いがわかると思います。それに1年ごとに2馬力とか、3馬力とか出力は上がっているので、細かい部分をやっていきたいと思います」と語っているだけに、スーパーGTを観戦する際は、各メーカーの自由開発部分の違いをチェックしてみたい。

 ちなみにJMSの勉強会ではNMCの社内見学も行われたのだが、ショールームに隣接する大森ファクトリーではR32/R33/R34の第2世代のGT-Rがレストアやチューニングされるほか、さらにその奥のレースカー整備場ではGT500クラスに参戦する23号車「MOTUL Niterra Z」のメンテナンスを実施している。さらにエンジンのベンチ室やカーボンコンポジット設備、雨に濡れることなくパーツの積み下ろしができるトレーラーの屋内パーキングエリアなど充実した設備となっている。

 さらにショールームでは1983年のスカイライン・スーパーシルエット・グループ5や1998年のペンズオイル・ニスモGT-R、フォーミュラEのGen2モデルなどレーシングカーやロードカー、過去のレースの優勝トロフィーなどが展示されていたが、筆者がもっとも印象的だったのが、メカニックのトレーニングルームで、室内にGT車両をもち込むことによって、雨天時でもタイヤ交換などのピットワークの練習が可能となっている。さらに隣接のトレーニングルームでは、ウエイトやマシンを使用したフィジカルトレーニングが行えるようになっていることもNMCの特徴で、それゆえにNISMOは素早いピットワークが行えるのである。


この記事の画像ギャラリー

廣本 泉 HIROMOTO IZUMI

JMS(日本モータースポーツ記者会)会員

愛車
スバル・フォレスター
趣味
登山
好きな有名人
石田ゆり子

新着情報