この記事をまとめると
■スーパーGTにはGT500クラスとGT300クラスがある
■クラスの違いがどれだけ異なるのか両方に参戦するチームマネージャーにインタビュー
■GT500とGT300のマシンや闘い方の違いもドライバーに聞いた
昔ほど性能差がなくなっているGT500とGT300
2024年のスーパーGT第2戦「FUJI GT 3HOURS RACE」が5月3〜4日、富士スピードウェイを舞台に開催。GT500クラス、GT300クラスともに激しいバトルが展開されていたのだが、果たしてGT500クラスとGT300クラスはどのぐらい違うのだろうか?
スーパーGTの前身として1994年にスタートした全日本GT選手権のころは、GT500クラスは500馬力のマシン、GT300クラスは300馬力のマシン……と最大出力でざっくりと括られていたが、現在のGT500車両は550馬力以上の最大出力を発揮するほか、GT300車両にいたっては大排気量エンジンを搭載するモデルになると500馬力に匹敵するパワーを絞り出すモデルも登場ししている。つまり、最大出力で括られていないことは明確なのだが、やはりGT500とGT300ではいろいろな部分で異なっているようだ。
というわけで、スーパーGT第2戦・富士の会場で、GT500クラス/GT300クラスの両カテゴリーに参戦する唯一のチーム「KONDO RACING」を直撃。同チームのモータースポーツ事業部で技術部統括を務める阿立信昭氏にGT500とGT300の違いを解説してもらった。
——KONDO RACINGはGT500クラスに24号車「リアライズコーポレーションADVAN Z」、GT300クラスに56号車「リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R」を投入していますが、GT500とGT300はやっぱり違うんでしょうか? 昔はGT500が500馬力、GT300が300馬力といわれていましたが、いまもそれぐらい違うんでしょうか?
阿立氏:いまのGT300クラスは500馬力あるマシンもありますし、トラクションコントロールやABSもありますからね。雨が降るとGT500でもGT300を抜くのは大変なほどパフォーマンスが高くなっています。とくにブレーキングはGT300のほうがよくなっていると思いますよ。
——なるほど。GT500とGT300は近くなってきたんですね。
阿立氏:実際、チームを運営するにあたって、GT500とGT300で大きな違いはないと思います。GT300はメンテナンスに時間がかからない……といったことはなく、GT500もGT300も同じ時間をかけてメンテナンスをしています。もちろん、カスタマーチーム向けに販売されているGT300のGT3車両と違って、販売されていないGT500車両には特殊な部分もあるので、その管理は異なってきますが、それ以外はほぼ同じです。
極端にいえば、GT500のメカニックがGT300のマシンをメンテナンスできるし、逆にGT300のメカニックがGT500車両をメンテナンスすることもできる。イメージ的にはGT300のほうがマイレージ管理は難しいかもしれません。GT500もマイレージ管理をしていますが、許容できる範囲が広いので意外と変更できる。実際、GT500ではタイヤテストが行われていますしね。どちらかというと、販売モデルのGT300のほうがマイレージはシビアなので、エンジニアには距離の管理を徹底して行ってもらっています。
——なるほど。逆にいえばGT300のGT3は、それぐらい精密にできているんですね。
阿立氏:かなりクオリティは高いと思いますよ。GT-Rもそうですが、メルセデスAMG GT3やBMW M4 GT3を見ていると、すごくよくできた作りになっています。
——GT500とGT300は車体以外に違いはあるんでしょうか?
阿立氏:車体が違うので、パーツやタイヤも違います。ほぼすべて違う……といった感じですね。
——使用しているガソリンは両クラスとも同じCNF(注:カーボンニュートラル燃料)ですよね?
阿立氏:違うんですよ。GT300も今年からCNFになったんですけど、GT500のCNFと違ってGT300のCNFは50:50の比率でハイオクが入っています。というのは、ガソリンによってオイルに対する希釈量が変わってくるので、GT500と同じCNFを使うとGT300ではエンジンブローが起きることがある。そのため、GT300ではCNFの使用を1年間、先送りにしていたんですけど、結局、成分の違う燃料を使用することになりました。
——じゃあ、データすら共有することはないんですね。ちなみに、メカニックやエンジニアは違うメンバーでしょうか? 共通しているスタッフはいるのでしょうか?
阿立氏:スーパーGTの場合、ピット作業に必要なメカニックが7名いて、エンジニア、データエンジニア、タイヤマンのサポートがいます。マネジメントサイドを含めると1台あたり13〜15名ぐらい主要メンバーがいるんですけど、その顔ぶれは完全にわかれていてまったく違います。共通しているのは近藤(真彦)監督だけです。
——それぞれGT500とGT300はメンバーが異なっているとのことですが、シーズン中に入れ替わることはないんでしょうか?
阿立氏:クルマに対する慣れが必要なので、シーズン中は各車両のメンバーは固定しています。
——GT500チームとGT300チームがレース中に連動して動くことはあるんでしょうか?
阿立氏:一切ないですね。ただし、レースではGT500とGT300では最終的にラップ数が変わってきますよね。当然、GT500車両とGT300車両では、それぞれの燃費は変わってくるんですけど、GT300の最初のピットストップ、あるいは2回目のピットストップがGT500のピットストップと重なる場合がある。
たとえばGT300車両が最初のピットストップを28周目に予定していると、GT500では31周目になったりするので、ピットストップが同じタイミングに重なることがある。その場合、私のほうでピットストップのタイミングを調整することはありますが、基本的にGT500とGT300のエンジニア、データエンジニアは独立しているので、連動する場合はピットストップが重なるときだけです。
——なるほど。ちなみにGT500とGT300で燃費が違う……ということですが、戦略も異なってくるんでしょうか? たとえばレース展開次第では、タイヤ無交換……みたいな作戦をとったりすることもあるんでしょうか?
阿立氏:タイヤ戦略でいえば、GT500車両ではタイヤ無交換という作戦はありえないです。というのも、GT500では走行距離のギリギリでタイヤを選択してくるのでライフがもたない。それぐらいのパフォーマンスでないとGT500では戦えない状況です。
——うーん、GT500は厳しいクラスなんですね。
阿立氏:2024年のGT500でいえば、ブリヂストンが12台、ヨコハマが2台、ダウンロップが1台ですよね。今年の予選方式ではブリヂストンが有利といわれていますが、ブリヂストンも12台のなかで競争していますからね。それにタイヤ交換だけでいえば、10秒ぐらいでタイヤを交換できるんですけど、仮にタイヤを交換した場合と無交換で1スティントを走行した場合、1周のラップタイムで0.5秒の差が出てしまうとすると、ピットストップの10秒は20周で取り戻せてしまうので、基本的にGT500では、どのチームもタイヤ無交換は考えてないと思います。
——なるほど。GT500では、タイヤ無交換のメリットがないんですね。でも、GT300では、ときどき無交換で走りきったりしていますよね?
阿立氏:GT300クラスでいえば、ブリヂストンとヨコハマ、あとダンロップ、ミシュランが競合していますよね。それにGT300はGT500ほど、タイヤのライフ面でギリギリの選択をしていないので、場合によっては2スティントを行ける場合がある。そうすればピットストップ時の10秒を稼げるし、タイヤのタレ幅が少なければロスをしないので、GT300クラスではタイヤ無交換で走行できることもあります。