安全装備なのにOFFスイッチがあるのはなぜ? 義務化されたクルマの横滑り防止装置は悪路で邪魔になる可能性があった

この記事をまとめると

■横すべり防止装置は2018年以降の生産車両に装着が義務づけられた

■クルマの挙動が乱れた際に自動的に安定させてくれる仕組みをもつ

■基本的にはONのままがデフォルトだがスタックした際にはOFFにするのが有効だ

安全装備をわざわざON/OFFできる理由とは?

 2018年以降の生産車両に装着が義務づけられた安全デバイスが、車両の横すべり防止装置(ESC=エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)だ。

 これはABS(アンチロック・ブレーキング・システム)とTCS(トラクション・コントロール・システム)、ヨー制御(ヨーコントロール)から成るシステムで、ブレーキは4輪独立制御が可能な方式としている。では、どうやって車両の挙動(姿勢)を安定させるのか、FRで左コーナーの旋回を例に挙げて説明してみよう。

 左コーナーの旋回なので、まず、コーナーの進入に際して直進状態からステアリングを左に切ることになる。このとき、車速がコーナー曲率に対して十分余裕がある場合は問題なく曲がっていくことになるが、オーバースピードで進入するとリヤが外側に振り出ていってしまう。これは車体にタイヤのグリップを上まわる左まわりのヨーモーメントが発生しているためで、技量のあるドライバーなら右方向の修正舵(カウンターステア)を当ててスピンを抑えることになるが、ESCはカウンターステアの代わりに右前輪(コーナー外側前輪)に制動力を与え、オーバースピードで発生したスピンモーメントと逆方向(右まわり)のモーメントを発生させ、車両のスピン運動を抑える(打ち消す)働きをする。

 ESCは、オーバーステアとは逆の、アンダーステアの発生に対しても有効に作用する。同じく左コーナーの例で説明すると、オーバースピードの場合は右まわりのモーメントが発生し、コーナー曲率に対して大きく外側に膨らむ動きとなる。このケースでESCは、左後輪(コーナー内側後輪)に制動力を与えて左まわりのモーメントを発生させ、オーバースピードで発生したアンダーステアモーメントを打ち消す働きをする。

 もちろん、こうしたオーバーステア、アンダーステアの動きは、旋回曲率に対し車速が速すぎるために発生するもので、走行速度を引き下げる働きも必要となる。ESCがTCSやABS、ヨーコントロールの組み合わせでシステムを構成するのはこのためだ。

 さて、装着が義務づけられるほど安全に対して有効に働くESCだが、ダッシュボードやその周辺に、ESCやTCS、またはVSCのオン/オフスイッチが設けられていることに気付く。旋回中の車両姿勢(挙動)を安定させるESC(TCSも含めて)を、なぜ意図的にオフにする必要があるのか? この意味を考えてみたい。

 ESCやTCS、が作動する基本要素のひとつとして、車輪(とくに駆動輪)の空転がある。適正速度に対して駆動力が過剰となり、その余剰分は空転として検知することができる。当然ながら、余剰駆動力はカットしなければならない。ESC(TCS)が、余剰駆動力をカットするのはこのためだが、旋回しているとき以外に駆動力をカットしてしまうと不都合なケースがあるからだ。その一例が、泥ねい地や砂地でのスタックだ。

 こうした低μ路にはまり込んでしまうと、タイヤを空転させながら駆動力を路面(とはいえないかもしれないが)に伝えることで、スタックから脱出できる場合がある。スタックに慣れた(?) 人なら、前進、後進と瞬時にギヤを切り替えながら、クルマの動きにはずみをつけてうまく脱出する人もいる。

 ところが、ESCがオン(作動中)だと、タイヤの空転が起きない。わずかにタイヤが空転した状態で駆動力がカットされてしまうからだ。この状況ではスタックからの自力脱出は不可能だ。

 ESCやTCSは、通常走行のときではオン(作動状態)に、スタックのような非常事態にはオフ(非作動)にすることで100%の駆動力を得られるようになる、と理解しておこう。ESCやTCSのオン/オフスイッチが設けられているのは、こうした理由によるものだ。

 あと、システムをオフにして非常事態から抜け出せたら、必ずESCやTCSのスイッチはオン(作動)状態に戻しておくこと。通常走行でESCやTCSによって得られる安全マージンは、相当に大きなものと断言できるからだ。


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