この記事をまとめると
■長距離トラック輸送にフェリーを活用するモーダルシフトが注目されている
■モーダルシフトも視野にいれたフェリーの新造やダイヤの変更が行われている
■「商船三井さんふらわあ」はLNG燃料を使いCO2排出量削減も実現
トラックでの長距離移動をフェリーに置き換える「モーダルシフト」
2024年4月の働き方改革関連法の物流業界への本格適用により顕著化しているトラックドライバーの人手不足。この法律の施行、とくにドライバーの労働時間の制限に伴い、これまで現役ドライバーの長時間労働により賄われていた物流が滞り、2030年には営業用トラックの輸送能力が34.1%不足する可能性があると試算されている。これがいわゆる「物流の2024年問題」である。
この問題の解決策のひとつとして、長距離の路線をトラック単独の輸送から鉄道やフェリー・RO-RO船(フェリーのような乗降船ランプを備え、トラックやトレーラーなどの車両を収容する甲板を持つ貨物船)などの船舶に置き換える「モーダルシフト」が注目されている。フェリー会社でもこのビジネスチャンスに着目し、フェリーによるモーダルシフト活用を物流業界に呼びかけるとともに、長距離トラックの利用に合わせたフェリーの新造や就航ダイヤの変更などに取り組んでいる。
2024年問題解決の切り札「モーダルシフト」現在地画像はこちら
鉄道や船舶へのモーダルシフトはトラックが走行中に発する排気ガスによるCO2を削減できるというメリットもある。フェリー会社ではそれもセールスポイントとしてアピールするとともに、新造するフェリーも燃料をディーゼル軽油からLNG(液化天然ガス)に転換するなど、環境に配慮したものとしている。
モーダルシフトを見据えた新造船「商船三井さんふらわあ」
「商船三井さんふらわあ」が2025年1月に大洗〜苫小牧間を運航する航路で就役させた「さんふらわあ かむい」も燃料にLNGを採用した新造フェリーである。
また、同型船の「さんふらわあ ぴりか」を7月に同航路に投入する予定だ。流線型の船首が特徴的な船型は、斜めの向かい風を推進力として利用できる「ISHIN船型」を採用。LNG燃料を使ったエンジンとともに環境負荷の大幅な低減を実現し、従来のフェリーより約35%のCO2排出量削減を実現している。
大洗〜苫小牧間を運航する「商船三井さんふらわあ」画像はこちら
「さんふらわあ かむい」と近日就航予定の「さんふらわあ ぴりか」は、両船ともに午前1時に出港し、同日の夜に到着する「深夜便」に設定されている。深夜便は貨物輸送に特化したフェリーで、トラックドライバーの休息を重視した設計になっている。これに対し同社には同じ航路を就航する「夕方便」もあるが、こちらは一般客を対象としたカジュアルクルーズという位置付けだ。
このモーダルシフトにより、航行時間をドライバーの休息に充てることでドライバーの労働時間も大幅に削減。さらには、フェリーを利用することで道路状況による配達の遅延やトラックの輸送中の事故、災害による長期事業停止といったリスクの削減もできるというわけだ。
各地でモーダルシフトに特化したフェリーが誕生
日本海のルートで本州〜北海道の航路を運航している「新日本海フェリー」も2025年12月就航予定の小樽〜舞鶴航路の新造船「けやき」を4月29日に進水させた。現在同航路に就航している「はまなす」「あかしあ」に比べるとと、乗用車は約半数、旅客定員は6割程度の積載能力になる。だが、トラックの積載台数はほぼこれまでどおりとすることで、よりトラックの輸送=モーダルシフトに特化したフェリーになっている。
本州〜北海道の航路を運航する「新日本海フェリー」画像はこちら
また、「新日本海フェリー」の小樽〜舞鶴航路の北行きは23時30分発翌日20時45分着、南行きは23時50分発翌日21時15分着と、トラックの利用を重視したダイヤになっているのもポイントだ。
2024年4月の働き方改革関連法の物流業界への本格適用から早くも1年。モーダルシフトによって長距離ドライバーの負荷軽減に期待が高まる。