この記事をまとめると
■TNGAは単なる車体構造ではなくトヨタのクルマの設計思想そのものを表す
■大きく変化する社会を見据えた柔軟な設計思想が10年前から始まっていた
■トヨタはTNGAを軸にして社会変化に対する多様性をもち続けることができている
トヨタのTNGAってなんだ?
トヨタのクルマを語る上で、TNGAという表現をよく聞く。トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャの略称だ。直訳すれば、新世代の世界市場向け車体となる。
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ただし、トヨタは「アーキテクチャ=車体」というハードウェア目線でTNGAを発案したわけではない。アーキテクチャとは、クルマの設計思想そのものを意味する。
TNGAが世に出たのは、2015年の4代目プリウスから。筆者はその当時、4代目プリウスの開発関係者と意見交換するなかで、いまでも印象に残っていることがある。4代目が出たばかりで気が早かったが、あえて5代目プリウスの方向性について聞いたところ「まったく予想できない」という答えが返ってきたのだ。
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その根拠は、時代が大きく変わり始めていたからだ。ドイツを中心にCASE(コネクテッド・自動運転技術・シェアリングなどの新サービス・電動化)へ向けた自動車技術の大転換が始まっていたのも、ちょうどそのころだ。
4代目プリウスの開発が本格化した2010年代前半時点では、CASEの波はまだ訪れていなかったが、トヨタとしてはグローバル市場の未来に対応するために、自動車開発のあり方を大きく展開しなければならないというイメージをしっかりもっていたといえよう。
前述の4代目プリウス開発関係者らの回答には、続きがある。「まったく予想できない」とした上で、「5代目はもしかするとEVになっているかもしれないし、PHEVが想定以上に増えているかもしれないし、そうでないかもしれない」とパワートレインの変化を予見できないと指摘した。
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さらには「もしかすると、プリウスの(社会における)役目が終わっていて、プリウスではない形でこうしたクルマが世のなかに出ていくのかもしれない」とまで踏み込んだ考えを示したことに、筆者はかなり驚いた。
いまになって思えば、彼らの当時の発言の裏には、市場変化が今後さらに大きくなることが確実ななかで、TNGAにトヨタとしての技術を集約することで、TNGAは市場変化にフレキシブルに対応できるはずという意思が込められていたのだと思う。
豊田章男会長が社長時代からいい続けている「もっといいクルマを作ろう」という強いメッセージは、TNGAがあってこそ成り立つ。サプライヤーを含めた自動車産業界の「多くの仲間たち」がTNGAという設計思想を軸にして、社会変化に対する多様性を持ち続けることができているのだ。