この記事をまとめると
■田植え機は泥田に沈まず走行できる驚異的な走破性をもつ
■植え付け精度を高め肥料散布や除草剤散布まで同時にこなす
■自動運転や電動化も進み自動車顔負けのハイテク農業機械へ進化している
なぜ田植え機は泥に沈まない?
日本の食を支える農業機械。そのなかでも春の主役ともいえる「田植え機」の走破性は、オフローダーも驚愕するレベルにあるといってよい。水が張られ、底なしの泥濘と化した水田を、数百キロもの車体を乗せながら沈まずにスイスイと進んで行くのだ。あの驚異的な機動性の秘密は、徹底した「低接地圧」の追求と、緻密な車高制御にあるという。
まず注目すべきは、独特な形状をした駆動輪だ。一般的な自動車のタイヤとは異なり、細く大径の車輪に「ラグ」と呼ばれる突起(フィン)を多数配置。これによりぬかるみの深い層までしっかりとグリップを伝えつつ、泥をかき分ける際の抵抗を最小限に抑えているのだ。さらに、外輪の横にはフロート(浮き)が備わっており、これが船の底のように泥の表面を滑ることで、車重を広い面積に分散させているのである。
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自動車なら、「アクティブサスペンション」に相当する機能も装備されている。車体の下部には泥の表面の硬さを検知するセンサーがあり、泥の深さや凹凸に応じて油圧シリンダーが瞬時に作動。常に機体を水平に保ち、苗を植え付ける深さをミリ単位でコントロールしている。つまり田植え機は、泥の上を浮きながら走るハイテクマシンなのだ。
以前の田植え機は、人間が後ろから歩いて操縦する「歩行型」が主流だった。その後、ゴーカートのように乗り込んで作業できる「乗用型」が登場。近年ではパワートレインと駆動系の改良が進んでおり、排ガス規制をクリアした高効率なクリーンディーゼルエンジンを搭載し、トランスミッションには自動車のCVT(無段変速機)を発展させたような、「HMT(油圧機械式無段変速機)」などが採用されているのだ。
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これにより、泥の抵抗が急激に変化する環境でも馬力ロスを抑え、スムースな加減速が可能になった。さらに、走行しながら苗を植えるだけではなく、肥料の散布・除草剤の撒布・側条施肥(苗のすぐ横にピンポイントで肥料を埋める技術)を同時にこなす、インテリジェントなマルチタスク機に変貌を遂げているのだ。
そして現在では、「自動運転」の最先端を走っている。公道を走る乗用車はレベル2〜3の運転支援が主流だが、広大な農地というクローズドコースにおいては、すでに「完全無人・自動運転(レベル3相当)」の田植え機が実用化されているのだ。また、最新モデルでは高精度なGNSS(人工衛星による全地球測位システム)と、基地局を組み合わせることにより、誤差わずか数cmという高精度な直進・旋回自動走行を実現。熟練の職人でなければ難しかった「歪みのない美しい直線植え」を、システムが自動で行うのである。
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一方、注目するべきトレンドとしては、資材の効率化を極めた「密苗(みつなえ)」技術との連動が挙げられよう。苗の密度を極限まで高めて育てることで、用意する苗箱の数を従来の3分の1程度に減らし、補給の手間や積載重量を大幅に削減。これを、高精度な植え付け爪が正確にかき取って植えていく。今後はさらに、電動化(EV化)も進められていくようだ。一見すると地味に見える田植え機だが、その内部には自動車顔負けの最先端の駆動・制御・自動運転テクノロジーが凝縮された、究極のハイテクマシンなのである。