【中谷明彦直伝】クルマが「止まらない」「曲がらない」に陥ったらどうする? パニックにならないために覚えておきたい限界領域のドライビングテクニック (1/2ページ)

踏めていても減速しない”フェード現象”

 長い下り坂でブレーキを使い続けていると次第に制動力が低下する「フェード現象」に陥ることがある。ブレーキは車両の運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギーに変換する装置。制動時に必ず発熱する。

 問題は発生する熱量とブレーキの熱容量バランスにある。長い下り坂でフットブレーキを連続使用するとディスクローターやパッドなどの温度が上昇する。パッドが使用温度域を超えると摩擦特性が低下し、同じ踏力を加えても十分な制動力を得られなくなる。これを”パッドフェード”と呼ぶ。

 注意すべきはブレーキペダルには比較的しっかりした踏み応えが残っている場合があること。「踏めているのに減速しない」という状態なのである。車重が重いSUVやミニバン、多人数乗車や大量の荷物を積んだ状態では運動エネルギーも大きくなり、ブレーキの熱容量が足りなくなる。さらに下り坂で速度を上げると負担は急増する。

 対策はブレーキに熱を溜めないことが基本。長い下り坂では低いギヤを選択してエンジンブレーキを積極的に利用する。電動車では回生ブレーキも利用できるが、バッテリーの充電状態や温度などによって回生量が制限される場合もある。「電動車だから下り坂でも大丈夫」と考えるべきではない。

 フットブレーキを弱くかけ続ける運転も避けるべきだ。必要な場所で確実に減速し、可能な区間ではブレーキを解放して冷却時間を設けることが重要である。

 もし踏力に対して明らかに減速しなくなったら、まずアクセルを完全に戻し、可能ならダウンシフトしてエンジンブレーキを強める。後続車に異常を知らせながら安全な退避場所を探す必要がある。速度を上げないことが重要。

 運動エネルギーは速度の二乗に比例して大きくなる。ブレーキを酷使する場面であれば速度を落として低速で下るのが賢明だ。

踏む力が伝わらなくなる”ベーパーロック現象”

 フェードと混同されやすいが、ベーパーロックは発生する場所も症状も異なる。

 油圧式ブレーキではペダルを踏む力をブレーキフルードによってキャリパーへ伝えている。ところがブレーキ周辺が極端な高温になると、その熱がフルードへ伝わって沸騰し、フルード内に気泡を生じることがある。そのためペダルを踏んでも気泡を圧縮することにストロークが使われてしまい、必要な油圧がキャリパーに伝わらなくなる。これがベーパーロック現象だ。

 ペダルタッチがフワフワしたり、通常よりストロークが深く沈み込んだりする症状が典型的。原因にはブレーキフルードの劣化やメンテナンス不良が考えられる。

 一般的なブレーキフルードには吸湿性があり、長期間使用すると水分を取り込む。水分が増えれば沸点が低下して高温時に気泡が発生しやすくなる。走行距離が短くても長期間交換していないクルマでは注意が必要なのだ。

 予防策はメーカー指定の時期にブレーキフルードを確実に交換すること。また沸点を示すDOT規格を必ず守り、有資格者がブレーキライン内のエア抜きを正しく作業することだ。

 走行中にブレーキペダルが突然深く入るようになったら非常に危険な状態と言える。まずアクセルを戻し、ブレーキペダルを素早く数回ポンピングすることで一時的に油圧を回復できる場合もあるが、ブレーキの異常でもっとも大切なことは、完全に利かなくなってから対処するのではなく、ペダルタッチや制動力の小さな変化を察知することなのである。

切るほど曲がらなくなるアンダーステアの理屈

 コーナリングでステアリングを切っているのにクルマが想定したラインより外側へ膨らんでいく。これがアンダーステアだ。

 タイヤが発生できる力には限界があり、加速、減速、旋回をひとつのタイヤグリップで分け合っている。進入速度が高すぎれば、前輪に要求される横力がタイヤのグリップ能力を超える。また強いブレーキを残しながら大きな操舵を与えたり、低μ路で急激にステアリングを切ったりしても前輪はグリップの限界に達する。

 ここで本能的に犯しやすいのが、「曲がらないからもっとステアリングを切る」という操作だ。しかし、すでに前輪が限界を超えているなら、舵角を増しても旋回力は増えない。むしろタイヤのスリップ角を過大にしてグリップの回復を遅らせることさえある。

 対処の基本は前輪グリップを取り戻すことだ。アクセルを戻して速度を落とし、必要ならステアリング舵角もわずかに戻す。前輪が再びグリップできる領域に戻れば旋回力が回復してくる。

 一般道では制限速度を守ってさえいれば、こうした状況に陥るケースは路面の異常やタイヤトラブルがなければ起こり得ない。電子制御もまた多くのシーンで貢献してくれているのである。


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