AT限定普通免許の初心者でも「1000馬力」に乗れる恐怖の現実。現代の高性能車オーナーにドライビングレッスンが不可欠な理由をレーシングドライバーが語る (1/2ページ)

上達への最善の近道はクルマの限界性能を知ること

 かつて、ドライビングテクニックを磨くのはレーシングドライバー、または一部のクルマ好きが情熱を傾けるものだった。しかし、近年の自動車の急激な進化と、それに伴うリスクの高まりを踏まえると、すべてのドライバーにとってドライビングスキルの向上は不可欠のリテラシーだと考えねばならない。とりわけ高出力/高性能車を所有し、ドライブする人に、知ることと経験を積むことが必須の状況といっても過言ではない。

 その実践的な習得の場が”ドライビングエクスペリエンス”だ。たんなる体験型イベントではなく、「クルマの限界性能と、それを操る人間の限界を見極める学びの場」としてのコンテンツがプログラムされていることが重要だ。

1000馬力のクルマですら所有も運転も無制限

 現代の高性能車は、もはや公道で使い切ることができないほどのパワーを有している。日本での自主規制による最大出力280馬力の時代は過去の話で、500馬力オーバーのスポーツカーも珍しくない。輸入車に至っては1000馬力クラスのスーパースポーツも市販されている。

 ところが、それらを所有する際、特別な免許や講習は必要としない。普通運転免許証さえ所持していれば、免許を取ったばかりの18歳でも購入できてしまうのが現実だ。

 一般的に免許を取得する場である教習所は、あくまで交通法規を守るための”基礎運転”を教える場でしかない。アクセルとブレーキ、ハンドル操作や車庫入れなどの最低限の技術は学べても、スポーツカーを安全に制御する方法や高速域での挙動特性、その対処法までは教えてくれない。

 ここに大きなギャップがある。高性能車を初心者がなんの訓練もせず合法的に扱える状況。例えれば、F1マシンを初めて自動車を運転する人に渡すようなものだ。ドライバーの技術と認識に乖離があれば、その性能は凶器になりかねない。

 販売する側もドライビングをレクチャーする責任を担うべきではないだろうか。

クローズドコースでクルマとの対話力を磨く

 ドライビングエクスペリエンスは、こうした背景を受けて自動車メーカーや専門ショップなどが開催する運転講習型イベントだ。私もこれまでに、三菱自動車と共同開催した”ランサーエボリューション・ハイパフォーマンスミーティング”をはじめ、メルセデスAMGとともに行った”AMGドライビングアカデミー”、”AMGエクスペリエンス”など多くの場でチーフインストラクターを務めてきている。

 その内容は多岐にわたるが、基本となるのが、いわゆる”広場トレーニング”だ。広大な駐車場などのクローズドスペースをステージとしてパイロンスラロームや急制動、緊急回避&車線変更などの基礎トレーニングを行う。とくにABSが作動するまでブレーキを踏み込み、ステアリング操作で障害物を回避するトレーニングは実際の事故回避に結びつく。

 水が撒かれた低μ路での”スライドコントロール”も重要な訓練だ。前輪・後輪を意図的に滑らせ、アンダーステアで対処したり、カウンターステアを当てて立て直す。

 こうした”クルマとの対話力”を磨くことで、ドライバーは「自分でクルマを支配している」感覚をつかむことができる。

 さらに、サーキットを使ったプログラムでは、車両本来のパフォーマンスを引き出しての走行も行われる。200km/h近い直線速度、S字やヘアピンコーナーでのブレーキングとライントレース、スローイン・ファストアウトの基本を実践する。

 つい先日開催されたAMGエクスペリエンスでは、GT 63 E PERFORMANCEを自らの手で操り、およそ300km/hの速度域を体感した参加者も多かった。彼らは口を揃えて、「公道では絶対にこんな速度を出せないし、出したいとも思わなくなった」と語っていたのが印象的だった。


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中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
JEEPラングラーPHEV
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海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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