この記事をまとめると
■路線バスでは前側と中央で異なる方式のドアを採用する車両が多い
■前側は限られたスペースに収めやすい折戸やグライドスライドドアが適している
■中央は車椅子などにも対応する広い開口と乗降性を優先している
バスのドアはなぜ全部同じじゃない?
街なかを走る路線バスの乗降口に目を向けると、ある奇妙な特徴に気づく。前側のドアは「折戸」なのに、中央の中ドアや後部ドアはスライドドアになっていることだ。すべての車両がこの組み合わせではないが、多くは同じ車両でわざわざ異なる方式のドアを併用している。
現在、日本国内のバスで採用されている主なドア形式は以下の4つに分類できる。
・折戸
複数枚の扉が蝶番で連結され、折りたたまれながら開閉する構造。省スペースで開閉速度が非常に速いのが強みだ。構造がシンプルでコストを抑えられるメリットもある。
・スライドドア
多くの列車と同様、戸袋や車体側面にスライドして開く構造。開口幅を広く確保しやすく、開閉時に車内外へ扉が飛び出さないため、乗客と接触する危険が少ない。
スライドドア画像はこちら
・グライドスライドドア
2枚の扉が両側に半回転しながら、スライドして開く機構(1枚扉のタイプは機構が異なる)。密閉性と、デザイン性に優れる。
・スイングドア
観光バスや、高速バスの前ドアに多いタイプ。ドアパネルがアームによって車外へ押し出され、車体に沿うように開く。高速走行時の気密性・静粛性が非常に高い。反面、開閉時に外側スペースを必要とする。
日本の路線バスは時代とともにその姿を変えており、昭和から平成初期にかけては車高がある「ツーステップバス」が主流であった。当時は乗降口に数段の階段が存在したため、前後とも「折戸」を設置する車両が多く見られた。しかし、1990年代後半からバリアフリー化が推進されたことで、ワンステップバスやノンステップバスが急速に普及する。
スイングドア画像はこちら
ここで大きな課題となったのが、車椅子の乗降だ。階段をなくした低床バスでは、車椅子スロープを設置するために広い乗降口が必要になる。同時に、ラッシュ時の乗降スピードを妨げないように、車内外のスペースを圧迫しないドア構造が求められる。要するに、現在の路線バスで前折戸(あるいはグライドスライドドア)と、中スライドドアの組み合わせが標準となったのは、以下の2点が主な理由といってよい。
・前ドアが「折戸」や「グライドスライドドア」である理由
バスの最前部はタイヤハウス・運転席・運賃箱などに囲まれており、スペースの余裕がほとんどないために、スライドドアの戸袋を作る隙間が取れない。その点、折戸やグライドスライドドアであればコンパクトに車内側に収まり、タイヤハウスの干渉を最小限に抑えられる。また、運転士の目が行き届く位置にあるため、ドア開閉時の巻き込み防止を視覚的に確認しやすいという利点がある。
折戸画像はこちら
・中ドアが「スライドドア」である理由
中ドアは一度に大勢の乗客が出入りし、車椅子やベビーカーの乗車口にもなるため、広い開口幅が絶対条件となる。中ドアを大型の折戸やグライドスライドドアにすると、開閉時に車内深くに扉が飛び出し、立ち客と衝突するなどの危険が生じる。戸袋側に格納されるスライドドアなら、車内にデッドスペースを作らず、安全に最大限の乗降幅を確保できる。
一見すると不揃いに見えがちな「前後で異なるドア」だが、そこには制限された車内空間のなかで安全かつスムースに乗客を運ぶために、技術者たちが絞り出した知恵が詰まっている。次に路線バスへ乗り込む際は、足もとや頭上で静かに動くドアのメカニズムにぜひ注目してみてもらいたい。