カーボンは高性能・高価・稀少素材から、エコ・廉価・一般的素材へ

東レの新工場「カーボンマジック・タイランド」は世界へ向けて生産拡大

 その昔、木目調インテリアは自動車の高級感を上げるための良いアクセントだった。現代、木目に代わって高級感を表現するために多用されるのがカーボンファイバーの織り目である。WEBCARTOP高強度で軽量なカーボンファイバーは、まずレーシングカーで使われ始めた。その技術はスーパーカーの材料として公道を走るようになった。こうしてコストが上がっても速さを追求するために使われたカーボンファイバーは、高性能と高コストすなわち高級感、そして希少価値の象徴となった。

WEB CARTOP確かに同じパワーを発揮するエンジンを同じ強度の車体に積めば、軽いクルマの方が速く走れる。当初スチールで作られていたレーシングカーのフレームが、その後アルミで作られるようになり近年ではカーボンファイバーで作られるようになった理由がここにある。

 だが、カーボンファイバーの使われ方は徐々に変化しようとしている。同じパワーを発揮するエンジンを同じ強度の車体に搭載し同じ速度で走れば、軽いクルマの方が燃費を節約できる。「速さ」と「低燃費」は一見すると相反する要素に思えるが、実は「高効率」という意味で同じである。つまり軽量であるというカーボンファイバーの特性は転じれば燃費を追求するために好都合なのだ。WEB CARTOP

 今後カーボンファイバーはレースという特殊な用途ばかりではなくエコカーという分野で大量生産され広く普及するようになるはずだ。そしてその準備を整えたのが、現在、カーボンファイバー素材で世界最大シェアを誇る東レ株式会社である。
2016年2月12日、東レの子会社であるカーボンマジック・タイランドの新工場がタイ・チョンブリー県で落成し、現地で落成記念式典が行われた。WEB CARTOPカーボンマジック・タイランドは元々、レーシングカーコンストラクターの童夢の子会社であった。童夢はレーシングカー開発を通して蓄積したカーボンファイバー加工技術を活かし各種カーボンファイバー製品を研究開発する組織として2001年に童夢カーボンマジックを設立した。そして拡大した業務に対応するため生産子会社として2005年、タイに現地法人、童夢コンポジット・タイランドを設立、操業を開始した。WEB CARTOP

 東レは童夢カーボンマジックに蓄積された技術に着目、2013年3月に童夢から童夢カーボンマジック及び童夢コンポジット・タイランドを買収して100%子会社とし、それぞれ「東レ・カーボンマジック」「カーボンマジック・タイランド」と改称した。

 東レは、カーボンファイバー複合材料を使った製品の設計・解析を含む試作と製造を今後急速に拡大する事業と位置づけ、まず米原にある本社の拡張に取りかかって2014年12月に竣工。カーボンマジック・タイランドは従来の工場で操業を続けてきたが、このほど生産力を引き上げるため新たに別工場を建設した。WEB CARTOP

 東レ・カーボンマジックは、現在の東レ・カーボンマジック米原本社を研究・開発の拠点、カーボンマジック・タイランドを生産の拠点と位置づけてカーボンコンポジット関連事業を拡大する予定だ。カーボンマジック・タイランドの新工場では、自動車関連製品を中心に航空機、鉄道、医療機器など様々な分野のカーボンコンポジット製品が2交代制で生産される。WEB CARTOP

 その結果、カーボンコンポジット製品は今後、どんどん日常生活に浸透し、高性能で高価で稀少な素材からエコで廉価でごく一般的な素材へ変化していくことになるだろう。
もちろん、高性能を追求するレーシングカーにもカーボンファイバーは使われ続けるはずだ。東レ・カーボンマジックも、技術の磨き上げのため今後もレースに関わっていく予定だと公言している。

 実はカーボンマジック・タイランドの新工場落成式典には、日本からSUPER GTを運営するGTアソシエイション(GTA)から坂東正明代表が駆けつけ祝辞を述べている。SUPER GTとカーボンファイバー、そして東レ・カーボンマジックの関係については次回、解説することにしよう。


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