大幅値引きにはワケがある! 激安新車に潜むワナ

通常ではあり得ない値引きの場合は理由がある

 今や新車購入時の値引き交渉は当たり前のようにも思われるが、世間は狭いようで広く、新車購入の際に値引きできることを知らないというお客も結構いるとのこと。「値引きなしの見積書を提示しても、いっこうに条件(値引き)の相談がなく、そのまま『それでは契約を』とお客が言ってきたそうです。セールスマンもさすがに値引きゼロで受注することに気が引けたので、初回提示程度の軽い値引きをして受注したことがあるという話を聞いたことがあります」とは、新車販売現場に精通しているA氏。値引き

 セールスマンの実績評価の”軸”になるものといえば、一般的に何台売ったかという”受注台数”がまず思い浮かぶはずだが、じつは受注台数だけでなく、”どれだけ利益を上げたか”という粗利ベースの二枚看板で評価されているのである。つまり、いくらたくさん新車を売ったとしても、極端な薄利多売をするセールスマンの評価はそれほど高くなどころか、意外なほど低いこともあるとのこと。どちらかといえば、粗利ベース、つまり値引きを抑えて販売しているセールスマンのほうが評価は高いようである。

 新車が史上空前の勢いで売れたバブル経済のころには、とにかく平日でも会社帰りにふらっとディーラーに立ち寄って新車を買っていくお客も絶えなかった。それゆえ、今では信じられないが、セールスマンは1カ月休みなしなどというのは当たり前(出勤していれば新車が売れたので休めない)。

 有給休暇の消化などはもちろんできないので会社が買い上げていたなど、”働き方改革”が話題となる今どきでは、正真正銘のブラック企業扱いされるような(当時は新車ディーラーに限らず世の中全般で当たり前だった)労働環境になってしまうほど、とにかく新車が売れまくっていたので、薄利多売でも十分利益をあげることができた。 

 しかし、そんな時代でも台数よりも粗利がセールスマンの評価では比重が高かったという話も聞いたことがある。最近では”値引きのプール制”などというものを採用するディーラーもある。これは新車販売時にマックスまで値引きを拡大しなくても受注できた場合は、マックス値引きと提示値引きの差額を次回以降のお客の商談で値引き額の上乗せに使えるというもの。

 たとえば30万円引きが上限のクルマを20万円引きで受注したとする。するとマックス値引きとの差額が10万円となりこれをプールすることができる。そして次のお客がマックス20万円引きのクルマを希望しているのだが、20万円引きしても希望予算に追いつかない場合に、プールした10万円から5万円をつかい、25万円引きで受注するといったことができるのを値引きのプール制と呼んでいる。  

 細かい内容は異なるものの、セールスマンに利益管理を意識させて販売活動を行わせるような施策をディーラーは個々に採用しているようである。新車が思うように売れない今どきでは、台当たり利益をしっかり確保することがより重視されるようになってきているのである。

 過去には長期在庫車などについては、いきなり大幅値引きが提示されたりしたが、今では在庫が長期化する前に、ディーラー名義などで登録(軽自動車は届け出)してナンバープレートを取得(自社登録)して、中古車オークションなどで転売して現金化してしまうので、かなり少なくなっている。

 そのようななかでも、一発で特大ホームラン級の値引き条件を獲得できるケースもある。それが“完切れ車”と呼ばれるもの。“完切れ”とは“完成検査終了証の有効期限切れ車”の略。型式指定を受けているクルマをメーカーで完成したときの検査が終了していることを証明する書類となり、9カ月の有効期間内ならば、運輸支局に実車を持ち込まずに登録申請を行うことができる。つまり完切れとなると、実車を持ち込み、検査が必要となるのだ。

 以前有効期間が半年のころは結構ディーラー個々で完切れ車の在庫はそこそこあったのだが、さすがに有効期間が9カ月ともなると、そのほとんどは有効期間が切れる前に自社登録してオークションに流してしまうケースが多いようで、非常に限定的となっているとも聞く。

 もし「このボディカラーなら……」などと、ボディカラーやオプションなどが、自分の希望と異なる仕様を紹介され、驚くような大幅値引きが提示されたら一瞬だけでも、それが完切れ車ではないかと疑ったほうがいいかもしれない。「長期在庫車なんじゃないの?」と軽くセールスマンに聞いてみよう。「別に完切れ車でもいいんじゃないの?」という意見もあるかもしれない。

 ただ、いくら壊れにくい日本車であっても、生産から9カ月ほどの間ほとんどエンジンを始動させることもなく置かれていたとすれば、そのコンディションはかなり懐疑的で、完切れ車を売るときにはどのように保管されていたかを確認するセールスマンも多いようである。

 それでも完切れ車に魅力を感じるならば、契約前に実車を確認することをおすすめする。

 また過去には値引きが大きくなるとのことで、展示車をこそっと売っていたこともあるが、今では展示車用として仕入れていることもあり、こそっと売ることはしないが、逆に「展示車は安く売ってくれないのか?」と、問い合わせてくるお客もいるとのこと。

 また商談開始当初は納期にも時間がかかり、値引きの拡大も今ひとつだったのに、急に値引きが拡大するだけでなく納期も短縮したら、ディーラー間で“車両交換”が行われたと考えたほうがいいだろう。

 たとえば年末や年度末など、1台でも多く販売実績(当該月内登録がカウント可能の原則)をあげたいような時期にはとくに目立つようだが、おもに在庫車同士となるがディーラー間でお互いが欲しい車両を在庫の中から交換することがあるのだ。

 自社で管理している在庫車ならばどのような環境で管理してきたかは把握することができるが、他社が管理していた在庫ではそのあたりを詳細に把握することは難しいので、稀なケースでは、実車が到着したらコンディションが悪かったなどいうケースもあるようだ。この辺りも警戒してもらいたい。

 許されないケースでは、すでにナンバープレートを取得した登録済み未使用車(届け出済み未使用軽自動車)、つまり未使用中古車ということについて十分な説明なしに、お客が新車と錯覚したまま、「こちらのほうがお買い得ですよ」と勧められたので購入してしまったというケースも聞いたことがある。

 もちろん、“どうしてもノルマが足りない”といった、“グッドタイミング”で商談を行った結果、単にディーラーの都合により、単純に値引き条件が急拡大することもある。ただ、買う側がそこまで要求していないのにセールスマンが積極的に値引き拡大を仕掛けてきたり、車種限定で好条件を提示してくるケースでは、とりあえず“訳あり車”であることを疑い、お互いの信頼関係を強固なものにするためにもセールスマンに確認することはお勧めしたい。

※写真はすべてイメージ


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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乗りバス(路線バスに乗って小旅行すること)
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渡 哲也(団長)、石原裕次郎(課長) ※故人となりますがいまも大ファンです(西部警察の聖地巡りもひとりで楽しんでおります)

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