カラーは機能に特化し表面処理にも意味を持たせる! 新型スズキ・ジムニーのデザインへのこだわりとは

ジムニーの原点に立ち戻って機能に特化

“世界最強のオフローダー”スズキ「ジムニー」が7月5日、20年ぶりにフルモデルチェンジし4代目へと進化した。そのデザインへのこだわりについて、四輪デザイン部四輪インテリア課の日向 隆(ひなた・たかし)さんに聞いた。スズキ・ジムニー

──新型ジムニーには歴代モデルのアイコンが多く取り入れられているように思えますが、その理由は?

日向:アイコンはとくに設定していませんが、ジムニーの原点に立ち戻って、機能に特化しています。最近のクルマでは加飾デザインが主流ですが、新型ジムニーで色味をつける場合は、機能と結びつけて位置がわかりやすいようにしています。 メーターは2代目の初期型に近いデザインですが、そこだけは凝って、しかしお金を掛けることなくカラーや機能表現をするというのがスズキのポリシーですので、「デュラビオ」という三菱ケミカル製の材料着色樹脂を使用しています。

新型ジムニーのものは、ハスラーのインパネ加飾に次ぐ第二世代ということで、型に精密加工を入れて、それにデュラビオの材料着色樹脂で射出成形することで、ピアノブラックとヘアラインのコントラストを見せています。また、ボルト風の形状を入れ、さらにツヤ消しにしました。飾り要素も、基本機能は損なわないようにしながら、よりタフに見せることにこだわっています。

──企画開発の段階では、どのようなデザイン案があったのでしょうか?

日向:数案ありましたが、方向性が定まっているので、比較的すんなり決まりましたね。ほかの案も機能に特化していました。3代目で求められていた乗用車ライクな要素は考えなかったですね。今はハスラーやスペーシアがありますから。

──そのなかで今回のデザインが選ばれた決め手は?

日向:もっとも大きいのは、中央にすべてのスイッチを集約したことですね。それに、グラブバーの扱いと、水平基調であることが決め手になりました。

──スケッチしたデザインを実車で実現するうえで苦労したポイントは?

日向:共通部品を使う必要がありますので、ヒーターコントロールのレイアウトが難しかったですね。カウルの位置が下がり、インパネの内蔵物が圧迫されるため、そこに共通のヒーターコントロールユニットを入れると前に出てきてしまいます。

当然室内が狭くなってはいけませんので、機能性というテーマに絡めて、突起はしているがそれは使いやすいようにするためという演出をするために形状を詰めています。 もうひとつは表面処理ですが、シボ柄を一般的な革調ではなくメカニカルなものにしました。

当社は樹脂塗装をしませんので、さまざまなサプライヤーさんから納入していただく各部品のグロスをトータルで詰めて、合わせ作業を綿密に行っています。 塗装されている部分があるとそこに目が行きやすいのですが、新型ジムニーは塗っていない部分がメインになりますので、その質感や仕上がりはデザイナーが最後までディテールを詰めて見ています。 インテリアグループは造型を作るメンバーとカラーを決めるメンバーとが一緒になって作業しているのですが、そのメリットを最大限活かし、部品の合わせと形状と表面処理を全部トータルで、量産直前まで詰める取り組みをしています。

──既存ユーザーからは新型の内装に対しどのような要望があったのでしょうか?

日向:使い勝手の面でポケッテリアやカップホルダーがほしいという要望はありましたが、インパネまわりで大きな不満はありませんでしたね。主だったのは積載性ですが、ユーザーに言われたからではなく、今回は最初からその見直しに取り組みました。なんとかフラットかつバックドアの開口部を大きくしています。といっても、家族でレジャーに行くクルマではありませんので、道具をたくさん積めるようにしました。 3代目は多少荷室を犠牲にしてワゴンとして使うことを想定しましたので、リヤクオータートリムをカップホルダー付きアームレスト形状にしていました。新型はそれを外していますが、最低限の居住性は確保するよう配慮しています。

──デザインにおいて機能面でこだわったポイントは?

日向:ドアトリムを薄くして、パワーウインドウスイッチもセンターに集約することができましたので、インパネのなかでも機能エリアを主張でき、実際に使いやすくすることができました。3代目は実際に悪路で当たってしまうということでしたので、新型は極力悪路でトリムが頭や肘が当たらないよう、トリムはインナーパネルを隠し、ドアを開閉するだけという機能に徹しています。ほかのインテリアパーツひとつひとつも、グローブ装着を想定して、あまり緻密にならないように設計しました。

──ジムニーはあくまでファッションで乗る一般ユーザーも多いと思いますが、そうしたユーザーに対するデザイン面での訴求ポイントは?

日向:ジムニーに限っては、プロユースを詰めておけば、ファッション面はいらないという考え方ですね。操作性がしっかりしていて、余計な加飾を排除するのが、ジムニーのファッションです。ひとつひとつの形状を端正に詰めるということを重視しています。

──内装のカラーデザインの考え方は?

日向:外装色が一部見えるようにしているのは、道具感だったりコストダウンだったり、さまざまな狙いがありますが、全部隠す必要はないということで武骨なイメージを表現しています。ボディカラーを見せると、逆にコストがかかることもあるのですが、それはよりスパルタンなものにするための演出ですね。また上級グレードには、汚れが取れる撥水加工と黄色の差し色をファブリックに入れています。

──特別仕様車「ランドベンチャー」に採用されていたクオーレモジュレを使おうという考えはありませんでしたか?

日向:クオーレモジュレは高いので……。3代目ではさまざまなタイアップを含む特別仕様車を十数種類作りましたが、私は入社以来すべて関わっていて、内外装色やエンブレムなどもトータルコーディネートしてきました。それらひとつひとつにテーマを設定して、季節感の演出なども自由にさせてもらいましたね。

──先代ジムニーには多様な特別仕様車がありました。今後設定するとしたら、どのようなものを作りたいですか? また、今後の進化やバリエーション拡大は?

日向:まだわかりません。新型は機能に特化していますので、加飾は必要ないと思っていますが、販売戦略上必要ならば特別仕様車を作って新鮮さを維持していきたいですね。この20年でハスラーやスペーシア、クロスビーなどライフスタイル商品が増えているので、3代目ジムニーが特別仕様車で作ってきたカテゴリーはいらないかもしれないですね。ですが、特別仕様車を作ることは楽しいので、やりたいことはやりたいですね。ネタはいろいろ仕込んであります。

──その新しいネタが披露される日が来ることを期待しています。ありがとうございました。


遠藤正賢 ENDO MASAKATSU

自動車・業界ジャーナリスト/編集

愛車
ホンダS2000(2003年式)
趣味
ゲーム
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