過酷なレースにも参戦するトヨタの凄腕テストドライバーが新型スープラへ込めた思いとは (2/3ページ)

スープラの“味”を作り上げるとは!? 人間の感性との合致がカギに

 言わずと知れたトヨタ自動車社長である豊田章男さんは、ことあるごとに「味づくり」という言葉を用いてクルマづくりの本質的な部分を表現している。では、トヨタの「味づくり」とはどのようなもので、新しいスープラではどのような味を目指したのだろうか。新型スープラのニュルブルクリンク耐久レース(VLN)参戦においてドライバーも務める、凄腕技能養成部・主査の矢吹 久さんに話を聞いた。

──凄腕技能養成部では、トヨタ車における「味づくり」の基本を理解したエンジニアやテストドライバーを育成することも大きなテーマだと聞いています。当然、矢吹さんはトヨタとしての味づくりについて熟知していて、判断する立場にあるわけです。そのうえで、新型スープラに対して矢吹さんが、どのように関わってきたのか教えてください。

矢吹:新型スープラについては、ご存じのように欧州を中心に開発されています。しかも一般道を積極的に走って、作り込んでいるのが特徴と言えます。その開発過程において自分としてはポイント、ポイントにおいて確認するというカタチで関わってきました。欧州で中心となってくれたのはTME(トヨタモーターヨーロッパ)のへルフィ・ダーネンスです。彼がTMEに入社したのは1999年ですが、そのちょっと前のタイミングで自分自身がTMEに出向していたこともあり、20年近い付き合いがあります。彼は、トヨタの味づくりを担うのに十分信頼できる人物です。

──新型スープラの開発において、欧州主体になったことはトヨタの味づくりを実現することに対して特別な難しさがあったようにも思います。へルフィさんについては別にインタビューしていますが、矢吹さんが信頼できると考える理由を教えてください。

矢吹:自分がTMEから日本に帰ってきたあとも、毎年ヨーロッパでトレンドを知るための試乗会のようなものを実施していました。日本だけでなく欧米の拠点からもテストドライバーが集結して、いろいろとディスカッションする場です。当然、TMEからへルフィも参加しています。そうした場で、お互いの感性であったり評価であったりをすり合わせしてきています。冬場には北海道のテストコースに来てもらって乗り合わせをすることもあります。そうして長くコミュニケーションしてきましたから、へルフィがそう言うならこういうことだろうと理解もできます。

──阿吽の呼吸でコミュニケーションがとれる仲というわけですね。

矢吹:その通りです。またへルフィは腕も立ちます。日本から若手をニュルブルクリンクに連れていってトレーニングするときにも彼には力になってもらっていますし、VLNにも一緒に参戦しています。世界的に見て、トヨタのテストドライバーのなかで、ニュルブルクリンクを自由に走ることができるのは4人しかいません。そのうちのひとりがヘルフィなのです。

──矢吹さんもその4人に含まれているわけですが、なるほどへルフィさんがトヨタの味づくりを担うのに十分な人物であることが伝わってきます。欧州メインで味づくりをしたといっても、トヨタの味がしっかりと反映されているわけですね。さて、走りの味づくりというのは地域やメーカーによって変わってくるのでしょうか。

矢吹:基本的な部分では、行き着くところはどのメーカーでも同じではないかと思っています。われわれが重視しているポイントをわかりやすく言うと、真っ直ぐ走ること、思い通りに曲がれること、狙い通りの速度調整ができることになります。ほかにも多くのチェックポイントはありますが、基本についてはメーカーが違うからといって意見が食い違うということはないと考えます。


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