3〜400万円のクルマに載るシロモノじゃない! 量産だけど高精度なGRヤリスの「エンジン」の生産に迫る (2/2ページ)

普通のラインで超高精度なエンジンを組める秘密

 じつは見学するまで、下山工場内にG16E専用の生産ラインが新設されたと思っていた。それも高精度の組み付けができるように、外部と遮断されたクリーンルームのような施設の中で、熟練の担当者が組み付けを行なっていると。しかし、実際は混流ラインでほかのエンジンと一緒に組み付けが行なわれていた。

 開発責任者の齋藤尚彦さんは「少量生産でもコストを上げないために使ったのは、『知恵』でした」と語るが、その知恵は多岐にわたる。各部品の重量合わせや組み付け精度などを理想値に合わせるための工夫や、クリーンルームを用いなくてもコンタミ(製品に混入した不純物)を防止する努力などにより、ほかのエンジン生産の邪魔をせずに、それとは比べものにならない高精度を両立させている。

 またG16Eは高性能を実現させるために、通常のエンジンより組み付けが難しい工程がいくつかあるが、それもさまざまなカイゼンや作業者の技術力でカバーし、組み付け時間も工程内で行なわれているそうだ。

 これらにより、AMGのエンジンのように一人の職人が最初から最後まで責任を持って組み上げる作業(One man,-One engine)を、GRヤリスのG16Eは混流ラインですべての担当者により実現しているのである。これが下山工場の「高精度混流ライン」だ。

 その証としてエンジンブロック側面にが「GR SHIMOYAMA 匠」のエンブレムが装着される。齋藤さんは「これだけは採算度外視して採用した」と語る。これが貼られたエンジンすべては、カタログ値を保証する「当たりエンジン」なのである。

 GRヤリスのラインオフ式の約4週間前の7月27日、このG16Eエンジンのラインオフ式が下山工場で行なわれた。GRカンパニーの友山プレジデントをはじめとする関係者が集まりラインオフを祝ったのだが、もともとビデオレターでの参加だった豊田社長が業務の合間を縫ってサプライズで駆けつけてくれた。

「下山工場でこのエンジンの生産に関わるメンバーに、直接『ありがとう』を言いたくて来ました。私はこのクルマと2年前に出会いました。最初は網走でした。当初は会話が成り立たないクルマで、アクセルを踏んでも反応してくれない……。しかし、この2年間の間で数々の会話、数々の道を走り、エンジンもグローアップしてここまで辿りつきました。これは下山工場の匠の皆さんの汗と努力の結果です。これからこのクルマが出て世界の道を走り、あらゆる不具合が出てくるでしょう。ただ、この段階でエンジンが作れたことに自信をもってください。そして『トヨタでもできる!!』ということを、皆さんのこれからの仕事で世に示して欲しいと思います。今後も改善は続くと思うのでよろしくお願いします。本当にありがとうございました」。

 GRヤリスの要の一つであるエンジンが「Made in SHIMOYAMA」であることを、是非覚えておいて欲しい。


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