技術的には100馬力も可能! それでも軽自動車が「64馬力」にこだわるべき理由とは (2/2ページ)

価格を考慮すると馬力アップのメリットは少ない

 かつて1.5リッターターボ時代のF1マシンは排気量1500ccから1000馬力を超える最高出力を生み出していた。ただし、こうした高出力化は技術的には可能であるとしても、価格の上昇は抑えられない。

 軽自動車で100馬力を引き出すならエンジンのシリンダーブロックやピストン、コンロッド、クランクシャフトなどのエンジン各部の基本パーツ強化はもとより、シリンダーヘッド、ガスケット、バルブまわりの耐久性も上げなくてはならない。また十分なクーリングを確保するためにウォータージャケットを拡大し、大型のラジエータの装着が必要となる。さらにトランスミッションやドライブシャフト、アクスルやハブ、ブレーキなどシャシー全般をハイパワーエンジン搭載に相応しい仕様へと変更しなければならないこととなる。その結果、価格に上昇率は20〜30%でも収まらないだろう。

 現状でも軽自動車は装備や安全性能、運転アシストなど普通車と変わらないレベルに揃えるだけで200円以上となり、生活必需品である国民車としては高価になりすぎていると指摘する声もある。もし100馬力のエンジンとするなら、250万円以上の価格となることを覚悟しなければならないだろう。そこにメリットを感じるユーザーもメーカーも今は存在しないといっていい。

 カタログ表記は64馬力でも、実際に計測したらそれ以上の馬力が出ていると思える軽自動車はすでに多く存在している。ホンダN-BOXのターボモデルをテストコースで試したら、140km/hの最高速度でも静かにクルージングできるほどパワーに溢れていた。スズキのハスラーやダイハツ・タフトはパワー感でさらに上まわっている。軽自動車は今のままの思想で、技術革新によってさらに秘かにパワーアップと燃費向上を果たしていけばいい。64馬力というカタログ記載数値を必要以上に意識する必要はないのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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海外巡り
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クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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