衝撃の「価格差」はドコに理由? 同じクルマなのに最安値と最高値グレードがあまりに開いている車種3台の中身 (2/2ページ)

羊の皮をかぶったスーパースペシャルモデルも存在!

2)トヨタ・アルファード

 2020年11月の新車販売台数で、1位のヤリス軍団、2位のライズに続き、なんと3位、それもライズと僅差の1万109台を新車登録したのが、今、大売れしているトヨタ最上級ミニバン、アルファードである。

 そのアルファード(ヴェルファイアも同様)も、価格レンジが広い1台。エントリーモデルはX 2WD 8人乗りの352万円だが、最上級のハイブリッドエグゼクティブラウンジSともなれば、電気式4WDになるとはいえ、輸入高級車もびっくりの775.2万円に達するのだ。もっとわかりやすく説明すると、ハイブリッド車同士でも、最廉価のハイブリッドX 7人乗り459万円より316万2000円も高価なのだから、なんてこった!!である。

 その価格差の理由は、エアロパーツの有無、タイヤサイズが16インチから17インチになるという細かい話ではすまされない。何しろメーターはエグゼクティブラウンジ専用となり、最大の特徴となる2列目席はまるでプライベートジェットのような、最上級の7人乗り専用、本革仕立てのエグゼクティブラウンジシートになるのである。パワーオットマン、パワーリクライニング機構はその下のエグゼクティブパワーシートと同様だが、加えて快適温熱シート+ベンチレーションシートなどが特別装備され、アームレスト部分を含むシートデザインの豪華さはもう別格。

 さらにエグゼクティブラウンジグレードにはTコネクトナビゲーションシステム+JBLプレミアムサウンドシステム、13.3インチリヤシートエンターテイメントシステムまでもが、シリーズで唯一、標準装備されるのである。つまりは、VIP向けの、2列目席をもっとも優遇した、700万円越えの価格もやむなしと思える豪華さ極まるミニバンのハイエンドグレードということになる。実際、政界、芸能界などの多くのVIP、大物がこぞってアルファードのこの仕様を好むのも無理はない。最高の移動、打ち合わせ空間にもなるからだ。だから、価格なんて関係なく存在し、また売れるというわけだ(経費だから!?)。

3)BMW3シリーズ

 同じ車種でも価格差ハンパない輸入車の1台が、BMW3シリーズセダンとアルピナB3の関係だろう。クルマにあまり興味のない人だと、ほとんど同じBMWに見えて、価格差なんと最大約770万円!!なのである。

 詳しく説明しよう。BMW3シリーズのエントリーモデルはBMW318iの489万円である。しかし、同じ(ように見える)ボディのアルピナB3の右ハンドル車はベース価格で驚愕の1258万円なのである(右ハンドルは29万円のオプションだ!!)。

 もっとも、アルピナB3のベース車両はM340i x Drive、987万円だから、それを基準にすれば271万円しか高くないのだが(あーっ、金銭感覚がマヒしてきた)、クルマに詳しくない人が見て、その違いがわかりにくい素の3シリーズとの価格差はあまりにも大きすぎるではないだろうか(試乗したB3はオプションテンコ盛りで1500万円オーバーであった)。

 しかしながら、アルピナ仕立てのインテリアに身を置き、走り出せば、ノーマルBMWとはまったく別次元。そのスペックを知れば、BMW車のシャシー、エンジンなどに特別な手を加える、プレミアムブランドのさらにうえをいくエクスクルーシブな自動車メーカーとしてのこだわりに納得せざるを得ないのである。

 何しろパワーユニットはS58型と呼ばれるM3用に換装され、3リッター直6ビターボ(ツインターボ)は、M340i x Driveの完璧を求めたパフォーマンスの387馬力を大きく上まわる、M3用をさらにトルクアップした、最高出力462馬力/5500-7000rpm、700N・m/2500-4500rpmという、とてつもないスーパーなスペックの持ち主なのである。

 乗り心地は20インチタイヤ!! を履いていながら、夢のようにスムースで快適。高速道路の段差がまるで補修されたかのように感じるほどだ。このフラットライドを、アルピナファンはアルピナマジックと呼ぶそうだ。

 そして静かに、滑らかに走り出し、速度を上げていくと、ほんの少しアクセルを開けるだけで、静かなまま、クルマの流れを大きくリードする、ウルトラスムースに発揮される加速力が得られるのだ。この時点では、しかし462馬力のどう猛さなど、みじんも感じられないジェントルさを保ったままだ。スパルタンなM3では、これほどまでの快適性は望めないと言っていい。

 では、アクセルペダルを深々と踏み込むとどうなるか? それはもう、血の気が引くほどの尋常じゃないどう猛な加速力を瞬時に発揮する。つい、うっかりアクセルを踏み込んでしまったのだが、瞬間的に公道で試せるレベルではないと判断せざるを得なかったほどだ。

 じつは先日、サーキットでアルピナB3に乗る機会があったのだが、コーナーでの地を這うようなしなやかなフットワーク、精密なステアリングレスポンスの良さ、雨のなかでもサーキットのハイスピードランを安心してこなせるxDrive(4WD)による圧巻の接地性と安定感の高さを痛感。無論、アルピナ独自の8速ATの制御も極めてスポーティなものなのである。乗り終えたあとの全身に染みわたる余韻も素晴らしすぎる。クルマから降りたくないと強く感じさせてくれたほどだった。

 そんなアルピナB3は、BMW3シリーズセダンに対して、羊の皮をかぶったスーパースペシャルモデルというべき存在である。1200万円も出せば、一目で速いスポーツカーだとわかるクルマも買えそうだが、そうしないのが、真のアルピナユーザーの粋。あえて、アルピナの証でもあるアルピナストライプを注文しない(じつはオプションなんです)ユーザーが少なくないのも、その証拠ではないだろうか。

 人に見せびらかすのではなく、自身だけの特別な満足感にひたるために、躊躇なく何百万円ものエクストラを払うことができるユーザーにこそ相応しいのが、このアルピナB3なのではないか。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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