「走り」だけがクルマの価値じゃない! レーシングドライバーが重視する5つの「後席」の条件とは (1/2ページ)

レース期間中にくつろげるプライベートスペースが後席だった

 よく「レーサーなのに後席乗るの?」と聞かれるが、レーシングドライバーという職業であってもクルマの後席には昔からこだわりを持っている。2ドアのスポーツカーならいざ知らず、4つドアを備えた5人乗りが前提であることが多い近年の乗用モデルが、後席を重要装備とみなさないのは理解し難いことではないだろうか。

 僕が最初に後席に注目するきっかけとなったのは1980年に発売されたマツダ・ファミリア(5代目BD型、通称323)だ。2ボックスのコンパクトなファミリーカーだったが、後席の足もとスペースを広く取り、「ラウンジソファシート」と呼ばれた後席シートは見栄えがよく、背もたれはリクライニングし、分割可倒式で荷室の使い勝手も良かった。大学生のころに新車で購入し友達を乗せると、それまで後席を嫌がっていた連中が争うように後席に乗りたがった。

 後席のユーティリティだけがヒット要因ではないが、323ファミリアは爆発的なヒットモデルとなる。今でも323ファミリアのラウンジ形状後席を模しているモデルも散見する。

 レーシングドライバーとなってからはクルマでの移動時間が長い。三重県・鈴鹿サーキットから仙台までの移動など500km以上のドライブが日常的だ。それだけにドライビングの楽なクルマを求めたが、同時に後席で心地よく休憩を取ることも重要だった。とくにサーキット内では当時、バブル経済の影響もありモータースポーツが大流行り。観客数は半端なく、富士スピードウェイには毎回10万人前後の観客が集っていた。

 だが当時の富士スピードウェイにはドライバー用の個室や休憩室などのホスピタリティがない。仕方なくパドックに駐車した車内で休憩したり着替えたりしたものだ。それでもパドックパスを持った熱心なファンがクルマを取り囲み、サインや写真を頼まれる。そんな衆人監視のなかで着替えたり精神統一し集中力を高めるために、外から車内が見えにくく、着替えも楽なほどに広く、外界の喧騒をシャットダウンしてくれるクルマを欲した。

 そんな要求を満たすために当時の僕が選択したのは、米国製シボレー・アストロ(商用バン)を改良した「スタークラフト社」のコンバージョンモデルだった。3列シートのミニバンで後席2列目のリクライニングはもちろん、回転対座も可能なフルレザーのキャプテンシート。3列目は電動稼働でフラットなベッドにもなる。ウインドウにはすべてブラインドが備わり豪華なデコレーションの内装で静かな音楽でも流せば精神統一には最高の環境が整えられた(写真はベースモデル)。

 エンジンをかけないとエアコンを効かせられないのが唯一の問題点だった。こうした米国製コンバージョンの発想が現在のトヨタ・アルファード/ヴェルファイアなどの豪華内装仕様に影響を与えたといっても過言ではないだろう。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
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趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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