なぜ「安全」といえばメルセデス・ベンツなのか? 「神話」が誕生した理由とは (2/2ページ)

メーカー自身が事故の原因調査をすることで安全性を高めていった

 1969年には、メルセデス・ベンツの技術者みずから事故現場へおもむき、実態調査を行う事故調査を開始した。その2年前には、エアバッグの開発にも着手している。

 みずから事故調査をおこなうことで発想されたのが、前面衝突事故でのオフセット衝突の考えだ。実際の交通事故では、クルマの前面が一様にぶつかる例は限られ、むしろ前面の一部が障害物や対向車などと衝突している実態を目の当たりにしたから気づいたことである。こうした実態は、書類のうえからだけではなかなかつかみにくい。そしてオフセット衝突による衝突安全は、これもいまや世界の自動車が取り組んでいる安全技術だ。

 さらに、事故を起こさないようにする取り組みとして、メルセデス・ベンツは、ABS(アンチ・ロック・ブレーキング・システム)を1970年に発表した。85年には、ASR(アクセレレーション・スキッドコントロール)を発表している。それらは、順次すべての車種に搭載されていくことになる。

 メルセデス・ベンツの新車開発の根底にある思想は、「シャシーはエンジンよりも速く」である。つまり、馬力にまかせて速く走ることよりも、高いシャシー性能によって安全に走行できるクルマづくりを目指すという意味だ。

 メルセデス・ベンツと同様に、スウェーデンのボルボも、安全なクルマとして世界的に知られている。1927年に乗用車の生産を開始するにあたり、その試作段階で試作車が道路をはずれ衝突する事故を経験した。そこから、ボルボは気候条件の厳しい北欧で、人を中心とした安全かつ丈夫なクルマ作りを基本としてきたのである。その取り組みのなかから、3点式シートベルトを1959年に開発し、その特許を無償公開している。これも同じく、いまや世界の自動車の安全の基本なる装備だ。

 またメルセデス・ベンツと同様に、1970年からみずから事故現場へおもむいて調査する調査隊を結成し、車両の状態だけでなく乗員の様子なども調べあげ、安全技術や安全機能の作り込みに活かしている。

 日本では、たとえばオフセット衝突に対応したトヨタのGOAボディが採用されたのが1995年のことである。ことにメルセデス・ベンツやボルボが安全なクルマとして広く認識され、信頼されている背景に、事故現場での調査など含め、取り組みの歴史と知見に他社と大きな開きがある。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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