クルマが走るほどに大気がキレイになる衝撃! トヨタMIRAIの「マイナスエミッション」とは

電動化を進めることで今の大気汚染を浄化させられる

 トヨタMIRAIなど燃料電池車(FCV)で使われる固体高分子型の燃料電池スタックは、非常に繊細かつ緻密な制御によって発電している。したがって水素や酸素は、高い純度が求められる。水素は99.9%というような純水素を用いなければならないし、酸素も、ただ空気中の酸素を使っているわけではない。

 ここで大気中の空気の汚染物質を取り除き、より純粋な酸素を採り出すことをMIRAIでもやっている。フィルターで濾過し、粒子状物質のPM2.5などを8~9割取り除いたあと、酸素だけを取り出して燃料電池スタックに使っているのである。

 そこで、フィルターで濾過された酸素を外へ排出すれば、汚染された大気よりきれいな酸素を含む空気を広めることになる。つまり、MIRAIが走れば、その周辺にきれいな空気が広がるというわけだ。

 そこで、ゼロエミッション(有害物質ゼロ)を超えたマイナスエミッション(有害物質を減らす)という言葉が出てくる。

 大気中の空気を浄化する発想は、90年代の後半にスウェーデンのボルボがPrem Air Catalyst Systemと呼んで取り組みをはじめている。これは、エンジン車のラジエターに触媒を用い、エンジン車の排出ガス中に含まれる有害オゾンが空気中に滞留しているのを、除去し、減少させるというものだ。99年式のボルボS80で採用された。その効果は、ラジエターを通過した空気中の有害オゾンの7割を、酸素化するとの試験結果もあるとしている。

 大気中の空気の正常化は、エンジンの排出ガス規制が進むにつれて、ガソリン燃焼後に後処理装置によって有害物質を浄化したガスが排出されれば、排出ガス規制前に汚染されていた空気が浄化され、きれいな大気になっていくといわれた時代がある。たしかに光化学スモッグをもたらす有害物質が取り除かれれば、空気はきれいになっていく。だが、燃焼後の排出ガスには酸素が残っていないので、そのままでは人は呼吸することができない。健康被害を減らす意味で、排ガス浄化をしたクルマが走るほど空気がきれいになるのは事実だが、大気が上質になるわけではない。

 MIRAIのマイナスエミッションも、ボルボのラジエターによる有害オゾン浄化も、それ以前に、排出ガスゼロの電気自動車(EV)が早く普及すれば、大気の質は保持されるのであり、EV普及を強く推進したうえで、エンジン車が出した有害物質を一刻も早く除去するうえで意味を成す技術である。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

新着情報