誰もが楽しめるクルマに仕上がっているのもメーカーならでは
次原「メーカーさんがここまでする、というのがすごいと思いますね。僕がメカドックを描いていた時代は、アウトロー的なショップがちょっと過激な改造をする、というのがチューニングの概念だったと思います。東京オートサロンも、メカドックを始めた頃は『東京エキサイティングカーショー』という名称で、ハッキリ言えばちょっとやんちゃなショップさんのお祭りだったのが(笑)、今はメーカーさんが本気で出展していますよね。だから『時代は変わったんだなあ』って。それに、ハードに攻めるのではなく、普通の人が楽しめるようになっているのも、さすがメーカーさんだなって」
松岡「S660のベース車は言わば『すごく美味しい素うどん』なので、料理のしがいがあって。S660モデューロXの開発メンバーはみんなクルマ好きで、すごく気持ちを込めて作りました」
次原「他のメーカーさんだとこのようなクルマは作れないですよね。ホンダさんだからかな」
松岡「他社ならもう少し分かりやすく作るでしょうね、サスペンションはもっとハードで、空力のデバイスもちゃんと付いているのが目に見えるように。ですが我々は、空力はデザインに落とし込んだり、走りもあまりガツガツした雰囲気ではなく、誰が走っても気持ち良く……という方向性なんですが。その辺りはどうですか?」
次原「僕はスピードが高くなると手に汗をかくタイプだけど、モデューロXは安心して楽しく乗れますよ」
松岡「ありがとうございます。まさしくそこを目指して作りました」
次原「レーサーの人が『もうちょっと踏んでみようかな』という気持ちになるのも分かりますね」
松岡「楽しい走りを目指すのは当然として、そこに安心感をプラスするのは、我々メーカーがやらなければなかなか難しい所ですね。先生はメカドックの頃から、トータルバランスの重要性を説いていましたが……」
次原「正直あまり深く考えていなかったんですけどね(笑)。その時々で、『あ、こんなのがあるんだ。面白いな』と。漫画って基本的にそうだけど、自分が面白いと思ったことをドラマチックに誰かに伝えて共感・共有してほしいというのがまず第一なんです。
僕自身は、大学受験に失敗して、手に職を付けようと思って自動車整備士の専門学校に行って、二級整備士の資格を取って。その在学中に描いた漫画が入賞したので、漫画家になったんだけど上手くいかず……。
そこで、何が自分の強みかを考えた時、クルマの知識があったから。専門学校に通っている時、『エンジンってこうやって動いているんだ』『動力ってこうやって伝わっているんだ』というのが、単純にすごく面白かったんです。
学校ではチューニングについては教えてくれなかったけど、メカドックを描き始めた1980年代前半はちょうどチューニングブームだったんで、ターボを付けるとパワーが1.2倍くらいになるとか、『こういうことができるんだよ』というのを漫画に当てはめて描いたんです。その時僕が面白いと思ったことを知ったかぶりで描いて読者に伝えたら、喜んでもらえて。
だから、正直トータルバランスのことは考えてなくて、漫画的に『軽自動車がアメ車に勝つにはどうすればいいか』とか考えて……ツッコミどころ満載なので、あまり検証されると困るんだけど(笑)。
ヒット作ってみんなそうだと思うんですが、作者が面白いと思ったことを読者もそう感じてくれたということだと思います。それにあの時代だから良かったんですよね、ターボとかDOHCが出始めた、パワー戦争の時代だったから。だから今描いてもダメですよね。『メカドック2を描いて下さい』という話も随分あるんだけど、今チューニングのことを描いたら大変だから(笑)」
松岡「これを付けたらより排ガスが減ります、とか(笑)」
次原「今キャノンボールとかしたら捕まりますからね(笑)」
松岡「でも終盤にはエコランレースも描かれていましたね」
次原「あの時代は多くの読者がクルマに興味を持っていから、食いついてもらえましたよね。いい時代に描けたと思いますよ」
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