「電動化」「脱炭素社会」なんて氷山の一角! 大転換期を迎えた自動車業界と日本の危機 (2/2ページ)

アメリカや中国に対して日本は出遅れている面も……

 具体的にアップルがどのようなEVを考えているのか、その具体像は何もない。しかし、たとえばEVは、クルマとしての移動価値に止まらず、EVから家庭や施設などへ給電する機能を持つことで、社会の電力需給を管理・制御する一翼を担うことになる。それは、燃料電池車(FCV)やハイブリッド車(HV)が、緊急時に電力を供給できるという水準を超え、日常生活のエネルギー需給に深く関わることを意味する。これは、ガソリンスタンドでの給油や、水素ステーションでのガス充填という、20世紀型の社会基盤に依存するクルマでは不可能だ。ここですでに、排出ガスゼロ(脱炭素)の発想だけでは不十分であることがわかる。

 単に脱炭素といって、クルマの機能だけを考え、LCAでどちらが優れるかと論議することはもはや意味を失っている。いかに社会と深くつながり、関われるかが問われる未来像であり、その実現へ向け、箱庭のような都市をつくってクルマを開発しても手掛かりは少ないだろう。

 たとえば米国カリフォルニア州では、自動運転の検証について米国や中国の企業が日本に比べ100倍前後の距離を実際の道で走り込んでいる。現実の社会とのつながりがいかに重要であるか、そこに気付いているかどうかが勝負の分かれ目なのだ。

 製造業から移動サービス業へ転身するだけでは未来はない。社会の安心と継続的な暮らしの創造にいかに深く組み込んでゆけるか。それを現実社会で一人ひとりの暮らしと関りを持ちながら検証し、実証する意味を認識し、そこへ挑戦できる企業しか生き残れないのである。それはもう始まっていて、日本は手遅れの恐れさえある。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

新着情報