「女性向け」は必要なくなった? イマドキの「女性ターゲット」小型車事情 (2/2ページ)

「女性向け」とうたう商品自体がナンセンスとされるようになった

 じつは、真の勝者はどちらでもありませんでした。ずっとこの5台の中で販売台数1位を譲らなかったのは、ホンダ・ライフだったのです。2位も変わらず、ずっと日産モコ。そして3位は、2006年まではラパンでしたが、2007年にステラが抜き去り、2008年までラパンは4位に後退します(2009年から再び3位)。ミラココアに至っては、デビュー当初からずっと、1位ライフの4分の1程度という販売台数で、5位から上がれず。認知度のわりに、それほど売れていなかったのです。

 なぜ、このような結果となったのか。もちろん、クルマとして見てもライフやモコはいい軽自動車だったと思いますが、じつはモコは、作っていたのはスズキです。スズキではMRワゴンという車名で売っていたモデルのOEM販売車だったのです。

 そういった背景を踏まえつつ、これはあくまで憶測ですが、やはり女性はブランド、CM、イメージに弱いということではないでしょうか。ホンダ、日産はその点、テレビCMや広告などもバンバン打っていましたし、販売店の数や規模も大きいので女性の目に入りやすい。また、夫や彼氏など身近な男性に意見を聞くと、ホンダ、日産を勧められることも多かったのではないかと推測できます。

 ただそんな状況で、2009年から常に3位に食い込んでいたラパンは、ブランドや広告などに頼りすぎず、純粋に女性たちに「欲しい」と思わせたという実力の持ち主。いまだに、ユーザーの約9割が女性という事実を誇り、唯一生き残っている最後のキュート系軽自動車ということからも、真の勝者はラパンだと言うこともできると思います。

 さて、女性向け軽自動車の盛り上がりは2011年を境に急激にしぼむことになったわけですが、それはなぜでしょうか。この年は東日本大地震が日本を襲った年でもありましたが、軽自動車界に新たなスターが彗星の如く現れた年でもありました。

 そのスターとは、現在7年連続で軽自動車販売台数No.1を独走している、ホンダN-BOX。そうです、この年を境に、軽自動車のトレンドは長らく市場を牽引してきたハイトワゴンから、両側スライドドアをもつスーパーハイトワゴンへとスイッチしていったのです。

 セダンというボディタイプそのものが苦戦を強いられている状況もあって、現在のラパンの売れ行きは芳しくありません。さらに、女性が好むクルマの傾向も大きく変わり、時代もジェンダーレスが進行。わかりやすい可愛さ、女性らしさといった要素は敬遠されることさえある時代になってきています。もはや、クルマに限らず「女性向け」とうたう商品自体がナンセンスと捉えられたり、なかなかPRも難しいのではないでしょうか。

 でも、女性に配慮して開発された軽自動車は全滅したわけではありません。ダイハツでは、初めて性能評価チームに女性が加わり、女性はもちろん誰でも安心して運転でき、快適に乗れる軽自動車を目指して開発されたのが、ミラトコットです。これも逆風のセダンタイプのため、今ひとつ売れ行きは伸びませんが、乗るととてもいいクルマだと思います。

 また、日産デイズや三菱ekクロス/ekワゴンも、女性の小さな手でも握りやすいシフトレバーや、小さな足でもしっかり踏みやすいペダル角度などを研究して、採用しています。さらに、ダイハツ・ムーヴキャンバスは「レトロかわいい」雰囲気を両側スライドドアのボディタイプで実現しており、大人気。こうして、2000年代に各メーカーが培った女性向けという技術やノウハウは、コンセプトや形を変えて、最新の軽自動車にも受け継がれていると言えるでしょう。


まるも亜希子 MARUMO AKIKO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
MINIクロスオーバー/スズキ・ジムニー
趣味
サプライズ、読書、ホームパーティ、神社仏閣めぐり
好きな有名人
松田聖子、原田マハ、チョコレートプラネット

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