国産メーカーを襲い続けた「VWゴルフ・ショック」! レーシングドライバーが体感した「衝撃度」とは (2/2ページ)

「ゴルフを超えた」の謳い文句で登場する国産車もあったが……

 その後、1985年にゴルフIをベースに開催されていたワンメイクレース「VWゴルフ・ポカール・カップ」へスポット参戦し、優勝もした。FF車でありながらレースカーとして成立する高い次元のシャシー性能に感動させられたものだ。同年は三菱自動車がFFコンパクトスポーツハッチバックの「ミラージュ・ターボ」を使用して「ミラージュカップ」を初開催。その開幕戦に出場して優勝していた僕は、レース仕様車ながらミラージュとゴルフの質感の違いに気付かされたのだ。

 1980年にはマツダがファミリアをFFコンパクトスポーツハッチバックとして登場させて第一回日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝いていた。当時の評価は「ゴルフ(I)を超えた!」というものが多く、僕もそのハンドリングに魅了されて人生初の新車としてFF323ファミリアを購入したほどだ。

 しかし、ゴルフIのレース仕様であるカップカーから感じ取った剛性の高さとは比較にならなかった。1986年にゴルフIIへ進化すると、その差はさらに拡大したように感じた。ゴルフIIではポカールカップにシリーズでフル参戦し、全戦をポールトゥウィンで優勝してシリーズタイトルを獲得した。そのレースを通じて安定した性能に驚かされたのだ。

 富士スピードウェイの長いストレートでスリップストリームを使いバトル。毎周順位が入れ替わる。スリップを使えば確実に前車に追いつき、横並びとなるが、横に並ぶと空気抵抗が揃って最高速が一緒になる。並びかけたライバルと顔を見合わせながら1コーナーへのブレーキ競争をしかけるのが唯一のオーバーテイク場面となった。生産車ベースでは性能の個体差が大きいのが当たり前の国産車の常識が、大きく否定されているのを知ったのだ。

 さらに、車体剛性の格段の違いも眼の当たりにした。同レースに参加していた先輩ドライバーが、直線の最高速域で横並び状態のまま他車と接触。コースを横切りコンクリートウォールを飛び越え、イン側の空き地で前転を繰り返しながら茂みの中へ消えていく大クラッシュを引き起こしてしまったのだ。

 その一部始終を目撃した僕は「先輩は逝ってしまった……」と確信。翌周には赤旗でレースが中断されるだろうと覚悟していた。

 しかし、レースは続行。レース後、先輩は怪我もなく「ゴルフIIは凄い! あの大クラッシュでもひっくり返ったクルマから普通にドアを開けて降りて出てこれたよ」とゴルフIIのボディ剛性の高さに救われたと感嘆していたのだ。おそらく国産車だったら車体がまっぷたつにちぎれていても不思議ではないほどの激しいクラッシュだったのだ。

 その後も「ゴルフを超えた」とアピールして登場する国産車は多くあったが、本当にそう思える国産車に出会うことはなかった。

 そしてゴルフVが登場する。その質感、走り、性能は大衆車とはいえず、プレミアムカーのレベルに達していたのだ。

 ゴルフV以降「ゴルフを超えた」とアピールする国産コンパクトFF車は無くなったと言ってもいい。そして、ゴルフVショックはゴルフ自身にとっても降り掛かることになる。続くゴルフVI、ゴルフVIIにもゴルフVが与えたようなインパクトが期待されたが、僕にはゴルフVから後退してしまったような走りの感覚しか伝わってこなかった。

 そして今、ゴルフVIIIが登場したわけだ。ゴルフVIIIの出来映えを見て、改めて「ゴルフ・ショック」を叫ぶ国産メーカーがいるだろうか。少なくとも僕に「ショック」は起こらなかったのだが、今後紹介されるであろう多くのリポートからゴルフVIIIの実力を読み解いてみてもらいたい。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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