水素活用は「燃料電池」だけが答えじゃない! トヨタが示した「別の」回答と将来への可能性 (3/3ページ)

カーボンニュートラルへの取り組みに新たなる方向性

 では、性能に関して未知数の水素燃料車だが、ガソリン燃料車と較べるとどの程度なのだろうか? 燃料自体が持つ発熱量で比較すると、低発熱量比較でガソリン44.4MJ/kg、水素121.0MJ/kg、高発熱量比較でガソリン47.3MJ/kg、水素141.8MJ/kgNIST Standard Refarence Databaseより)となるが、当然ながらガソリンと水素の燃焼条件が同じでないこと(たとえば空燃比など)、水素内燃機関の完成度がまだ開発途上現状にあることなどから、現状では出力性能などは、ガソリン内燃機関が上まわっている。ただ、坂本主査によれば「ガソリン機関と同等まではいかないが、かなり近い線にまではたどり着いている」とのこと。言葉の端々に手応えを伝えてくるが、その一方で「燃焼コントロールが非常に難しく大きな課題のひとつとなっている」と問題点もにじませていた。

 実際、動力性能を見るには、サーキットレースは一目瞭然の舞台で、車両の実力はラップタイムによって知ることができる。パワートレイン系をGRヤリスの流用、4WD機構を備えたこのカローラスポーツは、正確に性能比較ができる同一仕様のガソリン車は今回なかったが、もっとも近いと考えられるST-2クラスのヤリスが1分56秒前後のラップタイムだったことに対し、カローラスボーツは2分6秒台と10秒前後の開きがあった。もっとも、試験参加、実験参加のカローラスポーツが全力走行を試みること自体が考えにくく、また車両重量も重く、「24時間レースの完走で豊富なデータを得たい」というトヨタ側の参戦目的からも、即座に性能判定をしようとするのは誤りというものだ。

 レースに使った水素は、化石燃料の発電に頼らない電力(二酸化炭素無排出の発電、再生可能エネルギーなど)によって作られたグリーン水素で、福島県から輸送してきた気体水素だった。水素燃料車は、ゼロカーボンを特徴とする自動車であるだけに、水素を作り出す電力の内容も当然考慮している、というアピールである。このあたりは、EVを無公害、ゼロカーボンと謳いながら、充電する電気はどうやって作るのか(火力発電では意味がない)というロジックとまったく同じである。

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富士スピードウェイに出現した水素ステーション画像はこちら

 カローラスポーツの1スティントはだいたい10ラップ前後。1回の水素補充に要する時間は7~8分を想定。気体水素の充填の場合、急速充填を行うと熱膨張の問題があり、基本的には緩充填となるのだが、根本は水素の体積エネルギー密度がガソリンの3000分の1と極端に小さく、この問題をいかに解決するかが現状での課題となっている。ちなみに、今回のカローラスポーツ水素燃料車は、ピットストップの際に各部のチェックを入念に行ったため、レース終了時のトータル周回数は358周とかなり少なめで、走行距離に換算すると1633kmだった。(優勝したダイシンGT-R763周、3481kmを走破)

 温室効果ガスに占める76%が二酸化炭素で、このうち自動車が排出する分は20%に満たないと算出されているが、排出削減に取り組むカテゴリーとしては最優先で行える対象物でもある。こうした流れのなかで自動車業界は、EV一極化に歩調を揃えたような印象も与えているが、自動車誕生以来130余年にわたる研究開発によって進化発展を遂げ、ユーザーも慣れ親しんだ内燃機関を、そう簡単に捨てきれるものではない、というトヨタの強いメッセージ性を感じさせる今回の水素燃料車開発プロジェクトである。水素燃料車の実現にあたり、解決すべき問題は技術面、インフラ面でいろいろあるが、自動車業界が1度は諦めたと見えた水素燃料車に対し、トヨタが再注目したことで新たな方向性が示された、そんな思いを抱かせるカローラスポーツ水素燃料車の走りだった。

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