「嬉しい悲鳴」は予測能力の甘さ! 「納期遅延車」多発でも自動車メーカーが「対策」が打てないワケ (2/2ページ)

増産すると需要が落ち着いても簡単に減らせない

 需要の増加に応じて増産できないのか。ジムニーは増産を行った。2018年7月の発売時点におけるジムニーの国内販売目標は1年間に1万5000台/1カ月当たり1250台で、同年8〜12月の1カ月平均届け出台数は1876台だった。それが2019年の1か月平均は2523台、2020年は3171台、2021年1〜8月は3195台まで増えている。ジムニーの届け出台数は、発売直後の1876台に比べると、コロナ禍の影響を受けながらも2021年には1.7倍に達した。

 ヴェゼルは2021年4月に発売され、1カ月の販売計画は5000台だ。発売以降の登録台数は、2021年5月は4060台、6月は5692台、7月は7573台、8月は4404台であった。1カ月に5000台の販売計画は、売れ行きを下げて生産を終えるまでの平均値だから、発売直後には8000台前後を登録しないと目標を達成できない。コロナ禍の影響を差し引く必要はあるが、ヴェゼルは需要に対して生産規模が小さい。

 もともとヴェゼルは狭山工場で生産していたが、同工場の閉鎖が決まり、鈴鹿製作所に移管した。しかし鈴鹿では、N-BOXを始めとする軽自動車のNシリーズとフィットなどを生産しており、過密な状態にある。販売店からは「ヴェゼルの納期が伸びた背景には、鈴鹿製作所の体制も影響している」という意見も聞かれる。

 ランドクルーザーは、生産総数の50%以上が中東地域で販売され、ロシアとオーストラリアも加えると90%に達する。日本への割り当てが極端に限られて納期も遅れている。

 このように納期が遅延する理由はさまざまだが、ユーザーには迷惑だ。今は新車需要の80%が乗り替えに基づくから、納期が長いと、新車の納車前に今まで使っていた下取りに出すクルマの車検期間が満了する。納車を待つために、新たに車検を取ったりせねばならない。

 なぜ増産して納期を短縮できないのか。商品企画担当者に尋ねると、以下のように返答した。「増産をするには、生産設備を増やしたり、部品の供給量を上乗せする必要が生じる。そうなると一度増産したら、その後も同じ生産台数を保つ必要が生じる。減少すれば生産体制が過剰になるからだ。従って思い切った増産には踏み切れない」。

 事情はわかるが、納期遅延の背景には、もうひとつ別の理由もある。それは発売前に国内需要を見極める能力が下がったことだ。納期を遅延させる車種の担当者に尋ねると「ここまで人気が高まるとは予想できなかった」「嬉しい悲鳴」などというが、それは需要予測を間違えたことを意味する。海外市場への関心が高まった結果、国内はおそろかにされ、生産体制も整わずに納期を遅らせている。これが納期遅延の本当の理由だ。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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