誰も触ってないのにバイクが倒れない! テストコースで体験した「現実的」な未来の技術に衝撃【その2】 (2/2ページ)

ハードウェアの進化だけでは本当に安全な社会は実現しない

多面的に安全に取り組むということ

 安全への取り組みは、ハードウェア側にインテリジェント実装するだけではない。ASEAN各国など、運転者が習いたいけど運転を習ったことがなく、でも習慣的に運転している状況では、ホンダはスマートフォンをラーニングツールのゲートウェイとして活用する。個人のパーソナルデータや運転プローブデータを統合して、アダプティブラーニングAIがひとりひとりに合わせた学習プログラムを提供する。

 あるいは日常の運転中に、ドライバーの運転スキルや状況に合わせて、音声でパーソナルコーチングをするシステムも手がけている。これも運転データとリスクをAIが照らし合わせることで、アドバイスを通じてドライバー個々の運転能力を向上させることができるというのだ。

 また、受動的セーフティについても、エアバッグをはじめ独自の研究を進めている。事故が起きた時、頭部への衝撃インパクトが重篤化に繋がるとされていたが、ホンダはインパクト以前に頭部の回転が脳にもたらすひずみが、すでに傷害リスクを上げていることに着目。前席乗員にはオフセット衝突時にもドーナツ状のカタチで頭部の回転を抑えるエアバッグを開発。

 また、歩行者には車両とぶつかることを避けられなくなった時点で、衝突を予測して開く新・歩行者保護エアバッグを開発した。

 加えて、カメラによる乗員検知やADAS情報による衝突モード、時間を分析することで、ひとりひとりに合わせた拘束の仕方を導き出すとともに、人体ダメージを緊急搬送時に付加することもできるという。いわばパッシブ・セーフティも知能化されうる領域という考え方だ。

 エアバッグは依然としてパッシブ・セーフティの軸であり、二輪にも同じことがいえる。ホンダが開発した二輪用エアバッグは、対四輪がもっともクリティカルな衝突となる以上、頭部を保護する部分を分厚くしつつ、四輪の車体に支持される形状となっている。

 さらには二輪にも、漫然運転時に衝突エネルギーを減じるための被害軽減ブレーキや、前後コンビブレーキを普及拡大させるという。純粋に機械的な制御による、新興国向けの前後コンビブレーキとは別に、ABSモジュールによって前後制動バランスを変化させるのが、ゴールドウイングやCBR1000RR-Rなど先進国向けに用いられる。

 他にも、コーナリング時のバンク角によって斜め前方を照らすコーナリングライトや、デイタイムランニングライトや、緊急制動時に点滅するエマージェンシーストップシグナルなど、四輪同様の技術もすでにフィードバックが始まっている。

未来感覚あふれるコケないバイク

 しかしこの日、二輪の安全技術デモで最大のサプライズは、「ライディングアシスト」だった。この技術自体は2017年に発表され、前後輪の接地ジオメトリと重心位置をつねに変えつつジャイロセンサーでバランスをとる、という基本的な考え方は踏襲している。

 が、以前はフロントフォークのステムを左右に振っていたが、今回はリヤスイングアームに4軸式のモーター制御を加えることで、後輪自体が左右にスイングする。こうして前輪の操舵と車体重心が別々に動かせることになり、極低速域での取りまわしと車体ロールが、より自由になったのだ。

 実際のデモは未来感たっぷりだった。ライダーが両足を地面から離したまま、静止しているかと思いきや、後輪が左右にゆらゆらと動いて、バイクが自分でバランスをとっている。ライダーがわざと腰をふると、相殺する方向に後輪がスイングするし、徐行よりも遅い速度で8の字を描くこともできれば、スタンドをかけずに降りることさえできる……。

 開発者いわく、アシモに連なるロボティクス技術を二輪に応用したもので、立ちゴケ含むごく低速域でバイクの重量が仇になるような場面での安全性に貢献するためという。つまり、高速域でのパフォーマンスや運動性能を向上させるためではないが、乗り方・ロールのさせ方によっては、回転半径を思い切り小さくすることもできるとか。

 決まりや規則ではなく人間中心で発想する安全技術の奥深さと、ホンダのリベラルさを、思い知らされる体験会だった。


南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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