「欧州はMT大国」は過去の話! 貴重になりつつあるヨーロッパ産MT車とは (2/2ページ)

この時代にMTしかラインアップしていないモデルもあった!

 ドイツは、ポルシェだけといっていいだろう。718ケイマンと718ボクスターのすべてのグレードに、抜群に優秀なDCTといえるPDKと並んで、6速MTが設定されている。

 また、911についても、もっとも上級グレードであり高性能グレードでもあるカレラGTSには7速MTが用意され、そのさらに上の走りを徹底的に磨き抜いたGT3にも同じく6速MTの設定がある。

 その辺りはさすがポルシェ、と思えるところだ。なにせスーパースポーツカーの分野には、もはや3ペダルのMTなど存在しないのだからして。

 イギリスはどうか。プリミティブであることが魅力的なスポーツカーとして知られるケータハム・セブンについては、660cc85馬力で車重440kgの170Sから2000cc240馬力で車重525kgの480Sまで、ラインアップのすべてが5速MTという潔さだ。

 1930年代からスタイリングをほとんど変えておらず、クラシカルなイメージの強いモーガンは、2019年デビューのプラスシックスが8速ATのみになったのが衝撃的だったが、その翌年に登場したプラスフォーには8速ATのほかに6速MTも用意されて、ファンたちをホッとさせた。

 ちなみに搭載するエンジンは258馬力のBMW製で、Z4やトヨタ・スープラのものと同じ。だが、Z4にもスープラにもこのエンジンとMTの組み合わせはなく、モーガンのみ。頑張ってくれたな、と嬉しく思う。

 ロータスについてはエリーゼ、エキシージ、エヴォーラのすべてが6速MT、もしくは6速MTの設定あり、だ。けれどその3車はすでに新車のオーダーは受け付けておらず、ディーラー在庫のみ、という状態。

 代わりに登場したエミーラのV6ファーストエディションの受注が日本でもスタートしているが、これにも6速MTがしっかり用意されてるところがロータスらしい。

 ……と駆け足で紹介してきたわけだが、ぶっちゃけ、もはやこれだけ、である。クルマの電動化がこれからさらに進んで、新車はBEVのみなんていう時代が本当に訪れちゃったら、そこではトランスミッションなんて概念はほとんど無意味。もちろんMTなんて絶滅しちゃうことだろう。乗れるうちに乗っておくべし、だ。

 誰にも問われてないけど僕の個人的なオススメをふたつ挙げておくと、ひとつはアバルト595。コンパクトな車体に弾けるような1.4リッター・ターボ、それに5速MTという3者のマッチングは抜群。

 いかなる場所、いかなるときでも気分がグッと盛りあがるような走りが楽しめるからだ。ナリからすれば驚くほど馬鹿っ速なコンペティツィオーネもいいのだが、個人的にはベース・モデルがいいと思う。吹き上がっていくときのフィールが抜群に気持ちいいし、145馬力をMTでキッチリ使いこなして走るのが面白いし、スピードだって充分にあるし、それらとラインアップのなかでもっともしなやかなシャシーとのバランスが抜群にいいからだ。

 もうひとつは、718ケイマン。これもベーシックなモデルがいいと思う。何が何でも速くなきゃ! というスピード志向の強い人ならともかく、そもそも300馬力もあれば十分に速いし、何よりケイマンの最大の美点である運動性能の高さをあらゆる場面で味わえるのが素晴らしい。

 ケイマンもエンジンのパワーが高いモデルになればなるほどシャシーも締め上げられていくわけで、コーナーでの限界は高くなる反面、飛ばしてこそ楽しいクルマになっていく。が、”素”のケイマンはシャシーがもっともしなやかで荷重もよく動いてくれるから、例えば交差点ひとつ曲がるのでも楽しく気持ちいい。やたらと飛ばせる時代じゃないから、普段使いで味わい深さに触れられるクルマのほうがいいと思うのだ。

 そういう意味ではケータハム・セブンの170Sも……と、話がどんどん長くなっていっちゃいそうなのだが、キリがないのでこの辺で……。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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