【試乗】e-tron GT quattroがアウディの解答! EVでも思いっきり楽しいクルマを作ってきた (2/2ページ)

電気自動車なのに勇ましい音がする!

 ところで、筆者は以前、e-tron Sportbackの強烈なパフォーマンス、しかしBEVならではの驚くべき静かな移動空間に大きく感動した経験がある。また走行中、モーターの音だけでなく、ロードノイズさえも耳に届かず、聞こえるのはエアコンのさわさわした音だけという、クルマに乗っていることを忘れさせてくれるほどの静かさを現実のものにしたジャガーI-PACEにも試乗しているが、このAudi e-tron GT quattroには、そうしたクルマとは異なる世界観がある。

 というのは、パワースイッチをONにしてからというもの、結構な迫力ある低音のサウンドを、ハイパフォーマンスカーとしては控えめながら響かせているのだ(車内より車外のほうがより分かりやすい)。その理由は、あえてのe-tronスポーツサウンドシステムにある。電動化された走りをエキサイティングに演出するため、電気モーターの回転数や走行速度、アクセルペダルの踏み込み量などからデジタルサウンドを生成し、車内と車外! にそれぞれ2個搭載したスピーカーで再生。Audi e-tron GT quattroならではのサウンドコントロール、ドライビングプレジャーをもたらしてくれるというわけだ。

 無論、アウディドライブセレクトのモードに合わせ、静かな移動空間を楽しむ設定から、スポーティでダイナミックな設定まで、好みの走行サウンドに調整することも可能となっている。内燃機関の高性能車に慣れたドライバー、乗員にとって、これは歓迎すべき点であり、正直言えば、静かすぎる電動車の、ある意味つまらなさを見事に解消し、BEVであっても内燃機関のハイパフォーマンスカーのようなエキサイティングな走りを、そのサウンドとともに楽しませてくれるのである (もちろん爆音ではないけど)。

 今回は首都高速道路と一般道を1時間弱ほど走っただけの試乗だったが、パワーフィールは最高出力390kW、最大トルク640Nmの強烈なスペックと例のe-tronスポーツサウンドによって、公道ではアクセルペダルを深く踏み込むことをためらわせるほどの、モーター駆動ならではのシームレスかつ超絶なハイパフォーマンスを実感。乗り心地はさすがに20インチタイヤだけにタイトだが、そこはアウディ、粗さのないフラット極まるスポーティな乗り味にしつけているから、この種のハイパフォーマンスカーとして文句のない上質な乗り心地に仕上がっていると言っていいだろう。

 操縦性ももちろんスポーティ。機械式quattroの5倍のスピードで前後配分を可変させる新世代電動4WDシステム= 電動quattroによって、終始、4輪が路面に吸い付くかのようなフットワーク、圧巻のスタビリティの高さを示してくれる。一転、アウディドライブセレクトのモード設定によっては、BEVならではの優雅で静かなクルージングも楽しめるのだから、見事な”二刀流”ではないか。

 ただし、全長4990mm、ホイールベース2900mmの4ドアクーペとは言え、流麗なルーフラインを持つため、後席は頭上、膝まわり空間ともに広々としているとは言い難い。大人が乗っても不満のないレベルの居住スペースは確保されているものの、A6やA8のようなサルーンの快適感が望めない点は、承知しておくべきだろう(クーペだから当たり前だが)。また、リヤウインドウの視界も、スーパーカーのように天地が狭い……。

 わずかな時間付き合ったAudi e-tron GT quattroだが、アウディの理想を体現した強烈な電動パフォーマンスとともに感心したのは、やはり内燃機関のクルマからいきなり乗り換えても違和感のないドライビングプレジャー(e-tronスポーツサウンドによるところが大きい)と、意外なほど小まわりが効く点だ。調べてみると最小回転半径は5.5mと優秀なのである。小まわりが効けば、Uターンはもちろん、駐車、幅寄せもしやすく、ワイドな車幅、ごく低い視界であっても、意外なほど運転がしやすいという印象が持てたのも本当だ。

 なお、一充電走行可能可能距離はWLTCモードのカタログ値の534kmに対して、実質400km程度だと思われる。つまり、東京~箱根(往復約240km)なら余裕、東京~軽井沢間(約400km)であれば、軽井沢滞在中の1回の充電で、特別なことがない限り、問題なく走り切れる航続距離ということになるから頼もしい。

 そんなAudi e-tron GT quattroの車両本体価格は1399万円。レザーフリーパッケージ(30万円)、20インチタイヤ&ホイール(16万円)、ブレーキタングステンカーバイトコーティング&カラードブレーキキャリパー(35万円)、テクノロジーパッケージ(67万円)などをオプション装着した試乗車の価格、アウディの未来を今すぐに手に入れるための対価は1557万円に達する。なお、アウディは今後、4種類のEVプラットフォームを展開。2025年までにモデルラインアップの1/3をEVに、2026年には新型車をすべてEV化すると宣言している。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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