自動車大国なのになぜ? 日本にテスラやリビアンみたいなEVベンチャーが誕生しないワケ (2/2ページ)

このままでは日本は諸外国の後追いしかできなくなる

 米国のテスラが、昨年春に日本で約80~150万円もの大幅値下げできた背景にあるのは、中国の工場が稼働し、大量生産できるようになったことと、中国から日本への輸送費が、近距離のため安く済むことによる。つまり、リチウムイオンバッテリーの調達は、家庭用品などと同じように大量な生産が見込めることと、輸送の効率化によって、はじめて適正価格での入手が可能になる。

 国内のEV市場はまだ1%を切る状況であり、新興EVメーカーが大量のリチウムイオンバッテリー調達できる見通しは立たない。また、大容量のリチウムイオンバッテリーを数百ボルトという高電圧で利用するには、充放電での適切な制御が不可欠で、そのプログラム設計できるかどうかをバッテリーメーカーは懸念する。

 別の面では、国内でナンバー取得したり型式認定を得たりするには、衝突安全性能の確保など、開発や手続きの経費が高くなる傾向があり、簡単に公道を走れる状態へは持ち込めない。交通社会のなかで、ほかのクルマや歩行者保護を含め、安全確保は第一の要件だ。とはいえ、その基準が画一的に高いとなると、容易には開発できないことになる。

 国土交通省へ審査の書類を出す段階でも、膨大な資料が求められ、定められた書類を提出したつもりでも追加資料を要求されるといった声もあり、事務手続きの煩雑さに音を上げる実態もあるようだ。監督官庁が責任を負うかたちで行政執行するのは理解できるが、一方で、杓子定規な規則を何十年もそのまま運用するのも、進化や発展を阻害する要因となりかねない。規制も進化するには、行政が社会の実態を掴むため、自動車メーカーや新興メーカーなどと交流し、技術情報を交換する場も必要だろう。

 しかし、国内行政においては、企業との癒着を懸念する声が根強く、行政と企業の腹を割った意見交換の場が持てずにいるのが実態ではないか。

 100年に一度の変革期であると自動車工業会の豊田章男会長がいうように、行政と企業が一体となった次世代への仕組みづくりができなければ、日本はいつまでも諸外国の後追いしかできないだろう。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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