この記事をまとめると
■スーパーカーとして高く評価されるマクラーレンのロードカーに中谷明彦さんが試乗
■現在のF1マシンで得られた技術のいくつかがロードカーに落とし込まれている
■公道でその性能の全てを発揮することは不可能だが、非日常な運転感覚は堪能できる
イタリアンスーパーカーの牙城に切り込んだマクラーレン
スーパーカー好きのカーマニアに圧倒的な人気を得ているのがマクラーレンだ。マクラーレンはスーパーカーブランドとして近年特に目覚ましい人気を獲得している。従来、スーパーカーといえばフェラーリやランボルギーニといったイタリアのスーパーカーが主役となっていたが、イギリス生まれのマクラーレンは見事にその牙城に切り込み、高い評価を確立している。
マクラーレンが成功した理由はいくつかある。まずひとつには、F1レースにおける圧倒的な成功だ。皆さんもご存じのようにアイルトン・セナを擁したホンダF1第2期の活動でマクラーレン/ホンダは記録的な大勝利を上げる。それ以前にもマクラーレンの創設者であるブルース・マクラーレンが自ら率いたマクラーレンチームはF1やCAN・NAM(カンナム)で数々の活躍を示していた。
一方で、近年のF1においては、そのマクラーレン/ホンダ復活の狼煙を上げた第3期初期にワールドチャンピオンのフェルナンド・アロンソを擁すものの成功を獲得することが出来ず、失意のうちにエンジンをルノー、メルセデスと変えざるをえなかったという苦い経験も積んだ。近年のF1での活動を支えているのが、じつはこのマクラーレンのスーパーカーが市場で成功していることで得られる大きな資産の獲得に基づいているのである。ホンダと決別して以降はルノーやメルセデスのパワーユニットを搭載し、2021年シーズンについに優勝を果たし、2022年シーズンの新レギュレーションの元でも目覚ましい活躍を示している。
一方で、もうひとつの成功の要素は、このロードカー、スーパーカー・マクラーレンの成功である。もっとも初期のモデルは、1995年に登場した「マクラーレンF1 GTR」だ。ゴードン・マレー氏がデザインしたこのスーパーカーは、ガルウィングドアがひとつの特徴的なポイントとなっていたが、ドライバーがセンターに乗り、その両サイドにパッセンジャーが座るという3人乗りのインテリアレイアウトも大きな注目を浴びた。
このマクラーレンF1 GTRは、世界スポーツカー選手権等で大成功をおさめた。当時、全日本格式だったGT選手権でも、ラルフ・シューマッハー等のドライブでシリーズチャンピオンを獲得する。さらに、日本人として初めてルマン24時間レースを制覇した関谷正徳氏がドライブしていたのもマクラーレンF1 GTRであった。筆者も、マクラーレンF1 GTRのロングテールモデルで1997年にル・マン24時間レースを走り、また全日本GT選手権GT500クラスにも参戦し、貴重な経験を積んだ。
マクラーレンF1 GTRのロングテールこそ今回試乗することとなった「765LT」の起源となるモデルといっていい。765LTの「765」は「765馬力」という馬力数を示し、「LT」は「ロングテール」を意味している。マクラーレンがロングテールを求めたのは、ル・マン24時間レースのサルテ・サーキットに代表されるように、最高速度性能を追求したことによるものだ。ロングテール化することによって空気抵抗係数を減らし、また優れた空力特性で非常に高速での安定した走行が可能となる。
マクラーレンF1 GTRが納めた成功を元に、今のマクラーレンのシリーズが引き継がれていると言えるのだ。
マクラーレン・オートモーティブは、マクラーレンF1 GTRの成功をもとにそれ以降のマクラーレンモデルを次々と開発し、高い性能と商品力をパッケージして今の地位を築いてきたのだ。