トヨタが目指す水素の携帯カートリッジ化! それでも困難だらけの「水素社会」の実現 (2/2ページ)

携帯性以外にもまだまだ多くの問題を抱える水素燃料

 ところで、その水は、どういう水を使うのだろう?

 再生可能エネルギーの利用は欧州で進んでおり、ドイツのボッシュは2020年代半ばまでに、水の電気分解を行うスタックを開発すると発表した。そこで、水は何を使うかを問い合わせたところ、ドイツ本社に確認した回答によれば、使う水に関しては水電解装置のメーカーへ問い合わせてほしいとのことだった。しかし、そもそも物づくりにおいて、使用条件が明確でなければ設計の仕様を確定できないのではないのか。

 以上のことから、日本のみならず、世界的に脱二酸化炭素にのみ焦点を当てた水素への期待があるだけで、基になる水はどのように入手するかの問いに答えていない。

 一方で、気候変動はすでに世界各地で起きており、欧州ではアフリカ大陸からの熱波で気温が40℃に迫り、バングラデシュでは3日間で2000ミリを超える雨が降った。ウクライナでの戦闘も含め、食料が行き渡らない状況が現実であるなか、きれいな水を飲めない人が世界に22億人いるとされる。

 もし、水の電気分解に飲み水を使うなら、それより先に安全で綺麗な水を飲めない人々へ供給することが命を守るうえで優先されるべきだろう。それに対する回答を、水素社会を推進しようとする人や企業は、誰も持っていない。これでは脱二酸化炭素はできても、持続可能な社会を目指すSDGsに反する取り組みになる。

 この先、暮らしの鍵を握るのは、食料と飲料水と電力の3つだ。

 既存の軽水炉に替わる、より安全な最新の原子力発電活用を含め、食料(作物など)や飲料水をエネルギー(電力)に転用してしまわない電力による社会の構築こそ、21世紀の未来を創っていくのだと思う。

 原理原則を見極めた科学的視点がなければ、挑戦の志も徒労に終わるかもしれない。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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