【試乗】いま乗るならコレが最適解! ボルボXC60のPHEVは一生懸命考えても「ネガ」が見つからないクルマだった (2/2ページ)

BEVだけの生活に不安があるならPHEVが断然おすすめ

 今回の試乗は街なか7割、高速道路2割、ワインディングロード1割といった感じだっただろうか。

 走行モードを基本といえる「ハイブリッド」にして街中を穏やかに走っている限り、まず内燃エンジンに火が入ることはない。昨今のフルハイブリッドシステムを搭載したクルマの多くがバッテリーの残量が充分な場合には優先的にモーターのみでの走行するよう作られているのだが、ボルボの最新PHEVはバッテリー容量が大幅に増したおかげで、モーターだけで走っていられる時間と距離が飛躍的に伸びている。

 発進の段階からたっぷりとしたトルクが立ち上がり、滑らかさと力強さと静けさと重厚さを感じさせながらクルマを前へと押し進めていく。そのときのフィーリングが、とても心地好い。冒頭で「もはやほとんどBEV」と述べてるけれど、その理由はここにある。走行モードにはEV走行用の「ピュア」というのもあるのだが、モーターで走る楽しさや気持ちよさをさまざまな局面で満喫したいというとき以外、必要性をほとんど感じなかったくらいだ。

 もちろんこれまた多くのフルハイブリッドモデルと同じように、充電量がたりなくなってきたりアクセルペダルを強く踏み込んだりすると内燃エンジンが始動するわけだが、その際の振動はあってないようなものだし、音も静か。BEV走行からハイブリッド走行への切り替わりはシームレスで、XC60のもつエレガンスはしっかり保たれる。

 内燃エンジン+前後モーターの力をすべて使っての加速は、なかなか強力。スピードもしっかりついてくる。とはいえ、過激な素振りなど微塵も見せず、穏やかに確実に膨らんでいくような印象があるのはボルボらしい。ヒステリックな盛り上がり感のようなものも、物足りなさのようなものも、どちらもドライバーに感じさせず、素早くスピードを積み上げていく味つけの仕方は見事だと思う。走行モードを「パワー」に変えると少し勢いは増すが、そちらも必要性をほとんど感じなかったほどだ。

 もうひとつトピックを述べるとするなら、このPHEVシステムではワンペダル機能が備わった。発進も加速も減速もアクセルペダルひとつでコントロールできるのは、慣れてしまえばとてもラク。その独特のドライブ感覚はやっぱり新鮮で楽しい。しかもボルボのこれは、停止までまかなえてしまう。制御が緻密だからか、すべての動きがとても滑らかだ。こうしたところからも洗練性を感じることができる。

 余談だが、姉にあたるXC90のリチャージ・アルティメットT8 AWDプラグインハイブリッドにもチョイ乗り試乗をしてみた。こちらは内燃エンジンが317馬力に400Nmなので、T6よりもさらに力強いのはたしか。だが、フィーリングや味つけなどは、基本的には同じベクトルの上にあるように感じた。

 XC60はもともと乗り心地も優しく快適で、ハンドリングもほどよくスポーティなSUVだった。それと文句のつけどころが見つけられないPHEVシステムとの組み合わせ、だ。クルマとしての印象が悪いわけなどないだろう。

 冒頭のほうで「現状の最適解」とお伝えしているのだけど、その「現状」とは、これから迎えることになるBEV時代──ということになってる──を前に、充電インフラがロクに進んでいないいま、のこと。買い物だとか送り迎えだとか、そうした日常的な使用はBEV走行だけで軽々まかなうことができ、遠出のときには内燃エンジンがいろいろと補ってくれる、モーターが主役で内燃エンジンがサポート役みたいに仕立てられたこのPHEVシステムは、BEVのクルマに乗りたいのに充電環境の面で諦めざるを得ない、BEVだけで日々を過ごすにはまだ不安がある、といった人たちにとっても抜群に素晴らしい選択肢となるはずだ。

 唯一ボトルネックになることがあるとするなら、マイルドハイブリッドのXC60 B5との180万〜185万円ほどある価格差か。もちろんそれだけの価値は充分にあるとは思うのだけど、またMHEVはMHEVでいいところがあるのも事実なのだ。

 どちらか1台を選べといわれたら、僕はだいぶ悶絶する。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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