【試乗】Sを名乗るからには妥協なし! 最強&最高峰EV「EQS 53」と「AMG EQS 53 4MATIC+」にメルセデスの恐ろしさを見た (2/2ページ)

重さを感じさせない異次元の走りはやっぱりSクラス!

 ともあれ、まずはEQS 450+で走り出してみることにした。2.5トンを越える車重に333馬力だからあまり期待してはいなかったのだが、いや、さすがはモーター駆動。568Nmものトルクがあるのだから、力不足は感じない。瞬発力もあるし、スピードにも不満はない。アクセルペダルの踏み加減によるパワーとトルクのコントロール性もかなり良好だ。メルセデスだな、と思う。

 が、なにより秀逸に感じられたのは、その滑らかさ、静かさ、そして乗り心地のよさだ。とくに路面の凹凸をしっかり吸収して柔らかく受けとめつつ車体の動きをちゃんと収めていくときの心地よさが永遠に続いていく乗り味が素晴らしい。もちろんそれはエアサスペンションと可変ダンパーが見事な連携を見せて絶妙なバランスに保ち続けてくれるからにほかならないのだけど、快適とはまさにこのこと、とすら感じられたほどだった。

 その足腰の動きのよさは、ワインディングロードでもきっちり実力を示してくれた。そういうクルマじゃないということは重々承知してるけど、重心の低さを武器にして、適切なロール感と粘り強さを感じさせながら、自然に、そして気持ちよく素早く曲がってくれる。まるで小型車のように軽やかに、だ。

 それには最大で4.5度、オプションのソフトウェアをインストールすれば10度まで逆相に切れるリヤアクスルステアが大きく貢献してるのも確かだろう。並みとはいえない車体の大きさと長いホイールベースを持つというのに、こうした道でも持て余すことなく気持ちよく走れ、それどころかちょっとした路側帯でもあれば切り返しをすることなくUターンできてしまう小まわりのよさは感動的とすらいえる。

 外から見てると不自然なくらいに後輪がステアするのだけど、ドライブしてるときには不自然さを感じることがない。チューニングの妙、というヤツだろう。ちなみにこの機構は当然ながらAMG EQS 53 4MATIC+にも備わっていて、そちらは最初から9度に設定されている。

 次にはそのAMG EQS 53 4MATIC+を走らせたのだけど、AMGブランドが初めて世に送り出した電気自動車は、それに恥じない強烈なパフォーマンスを見せつけてくれた。スタートしようとボタンを押して、これまでのAMGに特有だった野太いサウンドが聞こえてこないことに軽く不思議な感じを覚えたが、それも束の間。走り出してみれば、紛うことなきAMGのクルマであることを実感させられる。

 なにせ658馬力に950Nm、だ。アクセルペダルをさほど強く踏み込まないうちから、その底力をたっぷり感じさせてくれるような厚みを感じさせてくれる。アクセル操作に対する反応はEQS 450+よりも明らかに素早く、力強の盛り上がりも段違いだ。グッと踏み込んでみると、加速感は圧倒的。一気に空気の壁を突き破って前へ前へと突き進もうとする。

 モードを“レーススタート”にしてみると、さまざまなスーパーカーをも体験させてもらってきた身であるというのに、1020Nmのトルクが瞬間的に爆発した(!)かのような怒濤の加速に身震いさせられちゃう始末。とても2.7トン近いクルマの加速には思えない。けれどギョッとしてるのはドライバーのほうだけで、クルマのほうは何ひとつ慌てふためくわけでもなく、変に姿勢を乱したりもしない。フロントモーターとリヤモーターの統合制御が優れていることの証である。

 曲がりっぷりも、やっぱり見事だった。クルマの性質上、サスペンションはEQS 450+よりも硬めの味つけで、コンフォートモードで走っていても低中速域では路面の表情を少しばかりゴツゴツした感じで伝えてくるものの、その分だけロール感は少なくコーナリングスピードも速く、AMGというブランドのイメージに相応しい走りを堪能させてくれる。リヤアクスルステアのおかげでときとして機敏にすら感じられる反面しっかりと腰が据わったフィールも享受できるのは、4MATIC+のAWDシステムが巧みにバランス取りを担ってくれてるからに違いない。

 AMG EQS 53は馬鹿っ速ではあるけれど危険な香りはどこにも漂っておらず、その気になれば乗り心地こそちょっと硬めながらそれなりに快適といえる穏やかなショファードリブンカーとしても充分に機能してくれる。そのあたり、じつによく練り込まれてるように思えるのだ。

 個人的にはゆったりまったり至極快適なEQS 450+のほうにより強い魅力を感じてたりはするのだけれど、この両車がそれぞれメルセデス・ベンツとメルセデスAMGの電動部門のフラッグシップであることに、不満も疑問もない。ただただ“お見事!”と思わされるばかりだ。

 メルセデスって本当に恐ろしい、と思う。いや、もちろんいい意味で、だけど。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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